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 第4回では、冷間始動時の排ガスを低減する方策について見てきた。最終回となる今回は、高負荷運転時の排ガス低減策と新規の規制対象物質への対応策にスポットを当てる(図1)。

図1 排ガスのクリーン化に向けたアプローチの例
図1 排ガスのクリーン化に向けたアプローチの例
ガソリンエンジン固有のものはG、ディーゼルエンジン固有のものはDとカッコ付きで示している。NOxは窒素酸化物、HCは炭化水素、EGRは排ガス再循環、λは空気過剰率、VCRは可変圧縮比、ASCはアンモニアスリップ触媒、PNは粒子状物質の個数、DPFはディーゼル・パティキュレート・フィルター、GPFはガソリン・パティキュレート・フィルター。各社の取材を基に日経クロステックがまとめた。(写真:EHCはIAV、PCIはAVL、ASCはキャタラー)
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高負荷λ=1運転に向け新技術の開発続々

 高負荷運転時の排ガス低減に関しては、ガソリン車では空気過剰率λ=1運転の拡大が現時点での最大の課題だ。現在、多くのガソリン車では、高負荷運転時に混合気を理論空燃比(ストイキオメトリー、ストイキ)よりも燃料が濃い状態(リッチ、λ=0.8程度)にするという操作が行われている。筒内で燃料を気化させることで熱を奪い、高出力を維持しながら、排ガスの温度が排気系の耐熱温度を超えないように制御している。

 この制御の問題点は、燃料を多く投入することにより排ガス量そのものが増えてしまうこと、および空燃比がストイキからずれることで三元触媒の転換効率が下がってしまうことだ。このため、排ガス低減の観点からは高負荷運転時でもストイキ(λ=1)での運転が求められている。

 その実現に向けて現在模索されているのが、ノッキングの改善による排ガス温度の低減や、排気系の冷却性/耐熱性の向上である。前者は、ノッキングを改善することで点火時期を進角化し、燃焼効率の改善や後燃えの抑制によって排ガス温度を下げるというアプローチ。後者は、排気系の冷却性を高めることで排ガス温度を低減する、もしくは排気系の耐熱性を高めることで筒内をリッチ運転によって冷やさなくても済むようにするというものだ。もっとも、ホンダ パワーユニット開発統括部パワーユニット開発一部エグゼクティブチーフエンジニアの新里智則氏は「ノッキング改善が最善の方向である」と言い切る。ノッキングの改善は、熱効率の向上、一酸化炭素(CO)排出量の低減、排気系保護と高出力化などさまざまな点で効果が期待できるからだ。

 そうしたホンダが、ノッキング改善のために開発しているのが、プレチャンバー点火(PCI)による急速燃焼技術「i-CVCC」と、高圧リタード噴射やエンジン上部冷却といった技術である(図2)。PCIは、副室(プレチャンバー)内で燃料に点火し、副室のキャップに開けた穴から飛び出す強力なジェット噴流で主室の混合気を一気に燃焼させる技術。ホンダの他にも、オーストリアAVLやドイツIAV、同Mahle(マーレ)などさまざまな企業が開発を手掛けている。新里氏によれば、EGR(排ガス再循環)なしの回転数が2000rpmの運転時において、燃焼期間を約50%短縮でき、燃焼重心(MFB50、燃料が50%燃焼するタイミング)をクランク角で15度進角化できるだけのノッキング改善効果が期待できるという。

図2 ノッキング改善のためにホンダが開発中の技術の一部
図2 ノッキング改善のためにホンダが開発中の技術の一部
(a)プレチャンバー点火(PCI)による急速燃焼技術「i-CVCC」、(b)高圧リタード噴射。(出所:ホンダ)
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 ただ、AVLによれば、PCIにはまだ課題もあるようだ。それは「-20度、-30度といった極低温の始動に弱い」(エイヴィエルジャパン パワートレインエンジニアリング事業部副事業部長の野寄高宏氏)ことだ。そのため、同社では通常の点火プラグに追加する形で副室にもPCI用の点火プラグを付けてこの課題を解消する技術を開発している。だが、小さな燃焼室に2つの点火プラグを付けることは避けたいという自動車メーカーも多いのが悩みの種だ。同社では燃焼重心(同)を7度進角化できる技術を実現済みだが、現在も低温始動性や触媒暖機のための点火遅角化時の燃焼安定性の確保に向けた改良を続けているという。