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 工作機械の受注動向は景況の先行指標とされている。2019年の市況低迷から一転して回復を見込んでいた20年だったが、新型コロナウイルス感染症拡大の直撃という予想外の事態でリーマン・ショック以来の低迷に陥った。だが、製造現場の投資意欲は高まっており、21年は設備投資の回復が期待されている。

 製造現場はアフターコロナに向けた変革期を迎えている。人手不足や熟練技能者減少の深刻さが増している上に、新型コロナ対策で三密回避やリモートワークを強いられ、移動制限で外注先や顧客との交流が難しくなるなど「新しい働き方」を求められている。これに呼応する工作機械各社は「高精度・高性能」から一歩踏み出し、デジタル化や自動化・知能化による製造現場の支援を加速させる考えだ。21年の工作機械、まずは業界の動向と展望を見ていこう。

 機械を造る機械「マザーマシン」(母なる機械)とも呼ばれる工作機械。機械製造に欠かせない設備であることから、その受注動向は製造業全体の設備投資の先行指標とされている。しかも、工作機械の性能が工業製品の生産性や品質を左右するため、その投資動向は日本のものづくり全体の方向性を示すものとなっている。

 世界市場でも日本メーカーが強い存在感を示している産業だが、他産業と同様に2020年は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響を受け、受注低迷に苦しんだ(別掲記事参照)。

 しかし低迷期は既に脱しつつあるようだ。日本工作機械工業会は21年1月7日、21年の工作機械の年間受注額が1兆2000億円と、19年並の水準に戻るとの見通しを示した。内訳は国内が4500億円、海外が7500億円。中国経済の持ち直しに加え、米国での景気対策などで製造業の設備投資が上向くとみる。欧州やインドなどの回復も見込む。

 DMG森精機取締役社長の森雅彦氏も「21年は回復を確信している」と断言する。製造業の動向に詳しい三菱UFJモルガン・スタンレー証券アナリストの佐々木翼氏は「製造現場はグローバルで人手不足に直面している。新型コロナで(同時5軸制御や複合加工機による)工程の自動化はいよいよ待ったなしの状況にある」と分析する。米中貿易摩擦や新型コロナで設備投資を抑えていた反動もあり、国内外で製造業の設備投資意欲は高まっている。

三現主義からデジタル

 では、アフターコロナを見据えて工作機械メーカーはどう対応しようとしているのか。カギは、「デジタル化」「自動化・知能化」だ(図1)。

図1 アフターコロナの工作機械業界
図1 アフターコロナの工作機械業界
リアルを重視する現場主義が強かったが、新型コロナでリモート対応に迫られ、工作機械のサポートサービスなどでデジタル化の動きが加速した。ベテランが減っている上に人を増やせないため、省人化に向けた自動化・知能化の要求も強い。
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 どちらも目新しいキーワードではない。例えば、デジタル化。近年、工作機械メーカー各社は、IoT(Internet of Things)やクラウド対応を積極的に進めてきた。しかし、顧客の製造現場にはあまり響いていないのが実情だった。「『製造現場は三現(現物・現場・現実)主義』と、顧客からデジタルを否定する意見をもらうことも度々だった」(DMG森精機の森氏)。

 そうした状況を新型コロナが変えた。移動制限のために、リモートでも工場とやりとりしたり監視したりできるIoTやクラウドサービスへの関心が高まった。自動化・知能化もしかり。製造現場は、かねて人手不足やベテラン作業者の減少に頭を悩ませてきたが、装置の自動化や知能化までは踏み切れていなかった。しかし、人を増やさずに生産性を高めるべく、省人化につながる自動化・知能化に本格的に顧客が目を向け始めた。

 「劇的な生産革新につながらないと投資の意味がないと顧客は感じている」(オークマ取締役社長の家城 淳氏)。中でもこうしたデジタル化、自動化・知能化を最も必要としているのが、中堅・中小企業の製造現場である。「自社の力だけでの生産革新は荷が重いとして、(顧客からは)生産ラインや工場を丸ごと面倒見てほしいとの要求が増えている」(同氏)。

 中堅・中小製造業にとって自前での生産革新は難しい。「それ故、工作機械の使いこなしを含めたトータルソリューションを求めている。新型コロナでその重要性が明らかになった」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券佐々木氏)。