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 製造現場はアフターコロナに向けた変革期を迎えている。人手不足や熟練技能者減少の深刻さが増している上に、新型コロナ対策で三密回避やリモートワークを強いられ、移動制限で外注先や顧客との交流が難しくなるなど「新しい働き方」を求められている。また温暖化ガス削減の新規制対応や脱炭素を目指す新技術の導入も急務だ。

 工作機械各社は顧客のこうした課題にどういう回答で応えようとしているのか。各社のトップに話を聞くシリーズ、牧野フライス製作所 執行役員開発本部本部長 土屋雄一郎 氏に話を聞いた。

つちや・ゆういちろう:2015年に勝山P1開発部ゼネラルマネージャ、16年に取締役 開発本部 副本部長、17年にS.I.T本部本部長、18年に執行役員 S.I.T本部本部長に就任。19年7月に執行役員 MDS推進室室長。20年6月から現職。(撮影:加藤康)
つちや・ゆういちろう:2015年に勝山P1開発部ゼネラルマネージャ、16年に取締役 開発本部 副本部長、17年にS.I.T本部本部長、18年に執行役員 S.I.T本部本部長に就任。19年7月に執行役員 MDS推進室室長。20年6月から現職。(撮影:加藤康)
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 牧野フライス製作所でもコロナ禍を機にリモートワークを導入し、徐々に浸透しています。従来、当社の営業は顧客との対面で製品を売るフィジカルな要素が大きく、ビジネス面でのIT化については工作機械業界の中では少々遅れていました。そうした課題を認識し、ちょうどメールシステムの刷新やクラウドサービスの整備を始めていた時期だったので、リモートワークも意外とすんなり進んだ面はあります。

世の中に合わせてビジネスを革新

 当社では、数年前からインダストリー4.0やIoT(Internet of Things)、デジタルツインなど、機械メーカーにおけるIT戦略に関するトレンドを調査しながら、「これからの機械メーカーとしてあるべき姿」を探ってきました。かつてと比べれば、顧客の要求も大きく変化しています。その要求の変化にどう適応していくかを検討していた矢先に、コロナ禍に見舞われました

 数年前からインダストリー4.0やIoTがさかんに唱えられていましたが、業界としてあまり切迫感がなかったり、やや腰が重かったりという面があったと思います。しかし、コロナ後の今20年4月以降は、当社も含めて「何かやらねば」という感じになってきています。

 従来、「100通りの顧客がいれば、100通りの要求と使い方がある」という考え方で、顧客の個別事情に合わせて製品を設計・カスタマイズして提供してきました。しかし、メーカーの経営面からいえば決して効率は良くありません。その都度設計しなければならないのに加え、個別に用意した保守用部品を何年、何十年も在庫として確保しておかなければならないからです。グローバル展開の本格化もこれからという20〜30年前ならそれでも問題ありませんでしたが、今はそうはいきません。

 かつて顧客の工作機械に対する要望は、高速度・高精度・高生産性・高信頼性といった、機械そのものの性能にフォーカスしたものでした。メーカーとしても、それが「工作機械における根本的要求」として、とにかく高いレベルを実現していくのがミッションでした。

 ところがこの10〜15年、先進国から新興国までをグローバルで見渡すと、そうした要求を満たすための技術は飽和してきています。かつては、新興国の製品は「安かろう・悪かろう」、日本製は「高性能・高品質」といった認識が一般的でした。しかし、そうした状況は大きく変わり、単純な機械の性能の差は縮まっています。ですから、単純に高速・高精度といった機械単体の性能だけを追求するのではなく、顧客の事業を工作機械メーカーとしてどう支援していけるかが大きな課題となってきているのです。

 「100通りの顧客がいれば、100通りの要求と使い方がある」という考え方は、今後も当社の存在意義の根底として変わらずあります。一方で今の社会や業界に合わせたやり方を実現すべく、ビジネス全体を見渡しながら設計開発プロセスの効率化や標準化に取り組んでいます。その代表例が20年秋に発表したコンセプトマシン「e・MACHINE」です。