プリント回路基板(PCB)を手掛けるOKIサーキットテクノロジー(山形県鶴岡市、図1)は2020年度から工場の完全自動化プロジェクトを本格的に開始した。第1段階で、20年以上稼働しているアナログ設備をネットワークに接続し、デジタルデータでの生産条件の設定や品質記録の取得を可能にする、いわゆるレトロフィットIoT(Internet of Things)を成功させた。同社は1カ月に3500種類のPCBを造り分ける高度な多品種少量生産を手掛けており、ひんぱんな段取り替えが工場自動化の大きなハードルになっていた。
段取り替えを自動化する
PCBは製造工程を個別に見れば自動化装置を利用可能な場合が多い。穴開けや、回路パターンを造り込むフォトエッチングの工程などには専用の自動化装置を使う。さらにこういった装置間のワークの受け渡しにロボットを使ったり、コンベヤーで直結したりすれば、リードタイムの短縮や人員の削減といった効果を得られる。
ただしこれは1ロット当たりの枚数が多い自動車や電気製品用PCBの話。OKIサーキットテクノロジーが専門とするのは10層以上の多層で難易度の高い基板(図2)。航空宇宙、社会インフラ関連の機器などで特に高い信頼性を求められる用途だが、これらの機器は生産台数が少ないので同社への発注は8割以上が1ロット20枚以内。1枚の場合もある。製造工程でひんぱんな段取り替えが生じるので各工程を自動化して相互につなぐだけではリードタイム短縮などの効果を十分には得られない。段取り替えの作業も併せて自動化していく必要がある。
代表取締役社長の西村浩氏は「難易度の高いPCBの市場は16年以降伸びていて、当社も年率10%以上のペースで成長している。増産のため人員を増やしたいが、採用が思うに任せない」と話す。近隣にはソニーセミコンダクタマニュファクチャリング山形テクノロジーセンター、TDK庄内の2工場などがあり、人材は取り合いの状況。一方で、通勤圏内にある人口10万人以上の町は、鶴岡市自身を除けば20km強の距離にある酒田市しかないため、そもそも人の多い地域とはいえない。「採用できたとしてもロッカーが足りない、ランチの場所がないといった問題が起こる。これらへの対応にこれまで以上の自動化が必要と考えたが、なかなか進まなかった」(同氏)
そこで自動化プロジェクトを立ち上げて専任者を張り付け、年間1億円の予算を割り当てた。3年間の予定で、約480時間の工数(1日8時間稼働として60人日相当、全体の約20%に相当)を削減する計画で活動を開始。自動化のテーマを100件程度リストアップし、順次取り組んでいる。