「ハードルが高いのは分かっていたが、なんとかしたかった」─。産業用ロボットや工作機械向けの鋳物部品を造っている栗田産業(静岡市)取締役副社長の栗田圭氏はそう話す。同社は2020年春から自社工場(静岡県御前崎市、図1)の鋳造設備のIoT化に取り組んでいる。

対象はこの工場で数十年間稼働し続けているショットブラストや電気炉など。同社はこれらの設備自体には手を加えず、アナログの制御盤などの表示をAI(人工知能)画像認識で把握してデジタル化、設備の稼働状況をリアルタイムで遠隔把握できるようにした。機材は市販のPC用Webカメラや小型PCボードの「Raspberry Pi」(通称、ラズパイ、図2)を使い、格安でレトロフィットIoTを成功させているのも特徴だ。
ハードだけなら一式約8000円
稼働状況のデジタルデータを取得するインターフェースがない設備を抱える工場は多い。古い設備を使い続けている中小工場は特にそうだ。かといって、現業に十分役立っている設備をそのためだけに更新するのも本末転倒だ。
カメラやセンサーを使って旧式の設備自体には手を加えず、稼働状況をネット経由で吸い上げられるようにするレトロフィットIoTの取り組みは以前からある。ただ、設備ごとの個別対応が必要でシステム構築に手間が掛かるため、意外に高くつくのが従来はネックで、特に中小工場にはハードルが高かった。
これがAIの汎用化や無償で使えるオープンソースソフトの充実、安価な小型PCボードの登場、PC用Webカメラの低価格化などで解消されつつある。栗田産業はIoTデータの可視化サービスなどを手掛けるアンビエントデーター(東京・世田谷)の協力を得て自社鋳造設備向けにレトロフィットIoTを構築。設備の稼働状況を自動把握するシステムを2020年春から稼働させている。
「古くてアナログな設備ばかりだが、配電盤や制御盤には稼働状態を示す表示灯やメーターが付いている。これを撮影して取り込むのが手っ取り早いと考えた」(栗田氏)。現場の作業者にとっても見慣れたデータなので、取り込んだ後に遠隔で監視したり、状況を把握したりしやすいという点もメリットだった。
システム構成はシンプル(図3)。設備の配電盤や制御盤の表示灯やメーターをWebカメラで撮影し、それをラズパイ上で画像処理して数値データに変換。工場内のLANを介してクラウドにアップ。アンビエントデーターのIoTサービス「Ambient」の機能で解析して可視化している。
ラズパイは「Raspberry 3B+」もしくは「4B」を採用。プログラムはPythonで書いて実装、画像処理には米Intelが無償で公開しているオープンソースのライブラリー「OpenCV」を利用した。カメラは市販のパソコン用「Logicool c270n」。カメラとラズパイだけなら一式8000円ほどで手に入る。