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とんちんかんな20年前の記事が逆に面白い

楠木:今からみると本当にとんちんかんなことを20年前に言っている記事があったりしました。それが逆に面白くて、読んでいると半日くらい時間が過ぎてしまう。そんな経験があって、前々から、さまざまな過去記事を振り返ったときに見える本質について、本を書いてみたいなと思っていたのです。

 ある程度なら誰もが似たような経験はお持ちだと思いますが、藤野さんのように、ご自身で昔の雑誌を取っているという方には、あまりお目にかかったことがありません。それは、どのような理由からですか?

藤野:特に意識して残しているわけではないのですが、過去に起きたこと、あるいは、自分が意思決定したことに対して、後で確認したり考察したりする作業が重要だと思うので、これは将来必要になるかもしれないと思ったものは全部残しているんです。

 飛行機を開発する場合、何か新しいことを思いついたとき、過去の歴史、理論や実験結果などを全部チェックする必要があります。米航空宇宙局(NASA)の発表や研究者が書いた論文を調べて、それらで網羅されていることと、そうでないことを洗い出します。これは、論文を書く時も同じだと思います。5年といったスパンではなく、30年くらいさかのぼってチェックします。そういうことが、比較的習慣になっているように思います。

2019年まで3年連続で小型ジェット機の分野でシェア世界一になったHondaJet
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 人材の採用などでも、こうした長期的なものの見方は重要です。その人のそれまでの経験や実績という過去についてはもちろんですが、能力や将来の可能性を見極め、将来のその人材の生かし方を考えなくてはいけません。過去とともに将来も考察することが同様に大切だと思います。

 また日本の人は「アメリカの教育システムはすごい」と盲目的に信じて、「アメリカの大学にいたのだからすごい」とか、「アメリカの一流メーカーにいたからすごい」というような理由だけで、その人を判断して採用してしまうこともあるので注意しなくてはいけないと思います。

 これは技術だけでなく、ビジネス、教育、スポーツなどでも同じことがあって、そこは、楠木さんが逆・タイムマシン経営論の中で、「遠近歪曲トラップ」としてまとめられている部分と近いなあ、と思っています。私としてはかなり響くところがあったんですね。

楠木:私が本の中で言っているような、どうしても近いものは粗(あら)が目立ち、遠くのものはよく見えるという「遠近歪曲トラップ」は、日本に限らず、世界中どこにでもあります。それは人間の本能的なバイアスの1つだと思います。

藤野:全く同感です。