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「バスに乗り遅れるな」に潜む危うさ

楠木:ベリーライトジェットがバズワードになった時、「バスに乗り遅れるな」と考えた会社は多かったのでしょうか。

藤野:「ベリーライトジェットならコストが安くなって誰でも⾶⾏機に乗れる」と いったキャッチーなワードがあるとみんなが⾶びつきます。当時、⽶IT⼤⼿のエグゼクティブだった⼈がベリーライトジェットの会社を立ち上げた時、「航空業界はどうしてこんなに開発や認定に時間がかかるんだ。ソフトウエアだったらもっと短時間で開発できる。⾃分がやれば、飛行機の開発、認定だって従来のメーカーの3分の1の期間で開発することができるし、もっと圧倒的に安く機体を作ることができる」といった発⾔をすると、新世代の人たちが⾶びつき、出資者も集まります。

 でも実際にやってみるとそんなに簡単なものではありません。ほかの商品とは違う次元での安全性、信頼性という壁にぶつかる。汎用ソフトウエアの信頼性レベルと⾶⾏機の信頼性レベルとでは要求されるケタが違うからです。バグが多少あっても早くリリースして、そのあとで逐一バグを修正して改良していく、というのがソフトウエア業界のビジネスモデルです。

 しかし⾶⾏機の場合、⾶んでいるときにアビオニクス(航空機に搭載される電子機器)のソフトウエアのバグで計器がハングアップしてしまったりしたら大変です。大事故につながりかねないし、墜落してしまうかもしれない。次元の違う絶対的な安全性や信頼性が求められます。それこそいわゆる、10のマイナス9乗といったレベルの信頼性が飛行機設計では要求されるのです。

 このように要求されるレベルが違うので、ソフトウエア業界の常識はそのまま航空機開発には通⽤しません。新規参入(フォロワー)の航空機メーカーは、開発を始めて5年くらいするとその現実に直⾯し、初めてその難しさの本質を理解します。そしてほとんどの新規飛行機プロジェクトが消えていきました。(編集注:例えば、⽶マイクロソフトの元幹部が1998年に⽴ち上げたEclipse<エクリプス>社は当初100万ドル<約1億 500万円>以下での⼩型ビジネスジェットの発売を表明。受注は数千機になっていたが、2008年秋のリーマンショック後に、受注が⼀気にキャンセルになり、また製品自体の競争力もなく間もなく倒産した)。

 結局、⽣き残って事業化にまでこぎつけたケースはホンダジェット以外ほとんどありませんでした。