全6173文字
PR

 私たちが真に注目すべきは、世の中の流れ、つまり「トレンド」のほうです。例えば、グローバル化、都市化、高齢化、環境破壊、デジタル化などは大きなトレンドであり、この流れは止められません。

 今回のコロナ禍は、その中のいくつかのトレンドを大きく加速し、急速な変化を促しました。中でも特に大きな影響を受け、一気に加速したのが「デジタル化」です。

 ここでデジタル化について考えてみましょう。デジタルと聞くと、拒否感がある方もいるかもしれませんが、デジタルの世界はまったく新しい別世界というわけではありません。デジタル上にあるのは、あくまで私たちの世界の情報です。つまり、デジタルには人間の本性が投影されているとも言えます。

 では人間の本性とは何でしょうか。ユヴァル・ノア・ハラリ氏のベストセラー『サピエンス全史』(河出書房新社)では、人間と、ほかの生物の運命を分けた違いについて説いています。それが認知革命です。約7万年前、我々サピエンスは新しい思考方法とコミュニケーション手段を獲得し、集団を形成できるようになりました。

 同書によると、典型的なチンパンジーの群れの上限は、およそ50頭。群れの個体数が増えるにつれて秩序が不安定になり、群れは分裂します。つまり、50頭以上のネットワークが形成されないのです。コミュニケーション手段を持つ生物は人間以外にも多数確認されていますが、人間以外の生物はすべて同様です。

 一方、ほかの生物よりもはるかに柔軟なコミュニケーション手段を獲得した人間は、50人を超えた大きな組織を形成できるようになりました。そこで重要な役割を果たしたのが「うわさ話」です。誰が信頼できるのか、誰が何をしているのかという情報を集団で共有することで、人間の集団は50人を超えて拡張し、より緊密な協力関係を持つ組織を作れるようになりました。

 うわさ話でまとまっている「自然な」集団のサイズは150人が限度だ、とハラリは言います。それより大きな集団になるとお互いの顔と名前が一致しなくなり、うわさ話が機能しなくなるのです。

 では人類はどうやってそれ以上の集団を形成できるようになったのか。重要な役割を果たしたのが「虚構」です。法律や正義、お金といった「虚構の物語」を信じることにより、人類は社会を築き、互いに見知らぬ大勢の人々が協力できるようになったのです。

 歴史を振り返ると、古代ローマの争いを見ても、中国の赤壁の戦いを見ても、何万人、何十万人という人間が集まり、同じ目的のもとで力を合わせて戦っています。これこそ他の生物にはできない、人類だけが獲得した能力です。

 巨大なネットワークを作り、目的を共有する共同体として動けることこそ、ほかの生き物にない人間の特徴です。ネットワークの力によって地球上で王者として君臨するようになりました。そして、そのネットワークの威力を強化してきたのが、テクノロジーです。

 人間にとって、最も基本的なコミュニケーションの手段は、会話です。人類は長らく、直接言葉を交わすことで意見を交換し、共同体を運営してきました。

 やがて文字が誕生すると、人間は距離や時間を超えたコミュニケーションが可能になり、約600年前にグーテンベルクが活版印刷技術を考案したことで情報の流通量は飛躍的に増えました。

 約150年前の電話の登場でコミュニケーションのスピードは格段に上がり、約30年前にインターネットが本格的に普及を始めると、ついに世界中の人々が瞬時につながれるようになりました。

 それでも、ネットワーク化は止まりません。SNS(交流サイト)によって「人と人」をつないだデジタルネットワークは、いよいよ「人とモノ」をもつなごうとしています。