全2803文字

家事の省力化を目的とした生活家電が成熟市場化する一方で、今後の成長分野と期待されているのが「ヘルスケア」と「美容」だ。いずれもQoL(Quality of Life)の向上というニーズに応えるために重要な分野であり、かつIoTを起点に様々なサービスを構築できる可能性がある。そこには、ハードウエア単体では完結しない、新しい家電の姿がある。今回は花王やカシオ計算機の取り組みを紹介する。

新規参入相次ぐ美容家電

 ヘルスケア分野と、美容家電でも新規参入が相次いでいる。例えば、化粧品やスキンケア・ヘアケアなどの大手である花王がスキンケアのための専用家電を開発したり、カシオ計算機がネイルプリンターを開発したりしている。

 花王が開発したのは、美容膜生成機「バイオミメシスヴェールディフューザー(ディフューザー)」だ(図9)。パナソニックと共同開発した。同製品は極細繊維を噴出し、ユーザーのスキンケアなどをサポートする。細い繊維の状態での流通が難しいため、その場で糸を生成できる家電を生み出した。

図9 化粧品メーカーが独自デバイスを投入
図9 化粧品メーカーが独自デバイスを投入
花王とパナソニックが共同開発した美容家電「バイオミメシスヴェールディフューザー」と繊維材料(a)。皮膚上に極細繊維からなる薄膜を形成し、その上に化粧品をなじませると、今までの化粧品にない効果を発揮できる。(b)が繊維技術「ファインファイバー」の効果。(写真:花王)
[画像のクリックで拡大表示]

 これまでにない製品ということもあり、新規顧客の開拓にも貢献している。「当社は1万円前後の化粧品領域に開拓の余地を残している。この家電は今までと異なる客層に届いている」(同社コンシューマープロダクツ事業統括部門化粧品事業部門プレステージビジネスグループエストブランドグループの新開龍一郎氏)。その具体例が百貨店における販売だ。通常、百貨店では他ブランド利用者の約2~3割が花王製品を購入すると成功だが、ディフューザーは高機能の訴求によって約7割という結果をたたき出している。

 同製品は直径1µm以下の細い繊維を顔の肌表面に吹き付け、薄膜を生成する。具体的には正電荷を与えた紡糸液を細いノズルから噴射。するとターゲットとなる皮膚上で糸が積層し薄膜をつくり上げていく。

 細い糸で生成した薄膜はさまざまな特性を保有している。例えば接着剤がなくても皮膚に張り付く、通気性を維持しながら化粧品などの製剤を保持できる、肌の凹凸が見えにくくなるなどだ。ただ化粧水や乳液などを顔に塗布するのではなく、まず薄膜で製剤の効果を高める環境を生み出すという点がユニークである。花王は今後、同グループを支えていく技術の1つとして、この細い繊維生み出す「Fine Fiber Technology(ファインファイバーテクノロジー)」を挙げている。

 ディフューザーは細い糸の材料になる「バイオミメシスヴェールポーション」、スキンケア向けの化粧品「バイオミメシスヴェールエフェクター」とともに利用する。化粧品を肌になじませてから、糸の材料を吹き付けて薄膜を形成すると、薄膜が化粧品を吸い上げて皮膚上に潤った環境を作り出せる。「皮膚上に化粧品をなじませただけだと、水分蒸散などの影響を受けて化粧品の効果が短時間になりやすい。一方でフェイスパックは水分蒸散を防げるものの、通気性が悪いため長時間の使用ができない。ディフューザーだと適度な水分蒸散と通気性を確保できるため、睡眠中などの長時間にわたって化粧品の効果を与えられる」(同社コンシューマープロダクツ事業統括部門化粧品事業部門商品事業開発センタ―次世代商品開発部マネージャー楠見伸子氏)と話す。

 現在、スキンケア領域の化粧品をメインに販売しているが、活躍の領域を拡大する開発も進めている。その1つとして同社は21年1月から新製品「バイオミメシスヴェールフィクサー」を発売する計画だ。シミ消し用途の製品で、メイクアップ領域を担う。一般的にシミ部分は肌のダメージが蓄積してしまって凹凸感などが出る。それを化粧品で無理やりカバーしようとすると、厚塗り感や凹凸感が出てしまい、余計にシミ部分が目立ってしまう場合がある。そこで「薄膜で肌の凹凸感を抑えつつ、膜上にシミ消しの化粧品をなじませられるようにして、より自然なシミのカバーを狙った」(楠見氏)。

 今後、同社はさらに化粧品の開発を進め、スキンケア、メイクアップ、ボディーケアなどの様々な領域で同製品を利用できるようにしていく。ディフューザーは5万円(税抜き)と高価な製品だが、多機能化を図ることで、ユーザーの満足感の向上なども狙う。