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家電の在り方が変わりつつある。根底にあるのは、消費者のライフスタイルの変化に伴って今の家電がその生活にフィットしなくなってきていることだ。新しいライフスタイルに合わせるために、今、デザインの重要性が改めて問われている。大きな変化が起きる家電市場で、消費者のライフスタイルを生み出してきたデザイナーは今、家電の将来をどう見ているのか。今回はznug design代表の根津孝太氏に話を聞いた。

 これまでの家電はコモディティー化が進み、壊れたら捨てることを前提としたビジネスだった。翻って、サブスクなど顧客と家電との付き合い方が新しい方向に進むこれからの時代には、モノと長く付き合うための「愛着」を形成することが必要になっている。

 例えばロボット掃除機の「ルンバ」が、掃除中に玄関に落ちていたというツイッターの投稿があっても、その視線は批判ではなくどこか温かい。もののかわいさとは何なんだろうとよく考えるが、確実に一つ言えるのが「健気さ」だ。

トヨタ自動車入社後、2005年に独立。GROOVE Xの「LOVOT」やトヨタ自動車の「Camatte」などを手掛ける。(写真:znug design)
トヨタ自動車入社後、2005年に独立。GROOVE Xの「LOVOT」やトヨタ自動車の「Camatte」などを手掛ける。(写真:znug design)

 愛着を作るに当たって大切なのは、こうした「健気さ」や「違和感のなさ」をデザインすることである。私がデザインを担当したロボット「LOVOT」でも、これらの点に多くの時間を費やした。抱っこしやすい形状や、ユーザーと懸命に対話しながら成長する設計として「健気さ」を作り、シンプルでアイコニックなデザインを追求して違和感を可能な限り払拭した。

 抱っこしたりした時に分泌される「オキシトシン」という物質は、愛着ホルモンなどと呼ばれ、LOVOTはこのオキシトシン型の商品としてビジネスも設計している。一方、これまでの家電は、店頭で目立つことや他社製品との性能差を意識した「アドレナリン型」だ。一時の興奮作用は醸成できるが長続きはしない。家電が今後、人のパートナーになるには、いかにオキシトシン型のデザインやビジネスを作り出せるかが重要になる。

 デザイナーは余計な要素を減らすのが仕事だ。どうしても必要なら、どこかの要素と関係性を整理して、すっきり見せるのが根本にある。そういうところを突き詰めていったのがLOVOTだ。

 今後、AIでパーソナライズ化というのは大きな柱だし、方向性としてアリだが、それで何になるのかをちゃんと考えた方がいいと思う。コンシェルジュ(執事)なのか、お友達なのか。それとも存在感のないアノニマスなものになりたいのか。形としてのデザインを考える前にそこが重要だ。