従来のLi(リチウム)イオン2次電池(LIB)よりも安全で低コストな「全樹脂電池」の量産が2021年秋に始まる。全樹脂電池を開発するAPBは、既に量産拠点を設立済みである。従来LIBと一線を画す全樹脂電池はどのような電池なのか、その技術と同社の歩みをおさらいする。
Q1:全樹脂電池とは何か?
Q2:なぜ安全なのか?
Q3:従来LIBとの製造工程の違いは?
Q4:コストはどのくらい低いか?
Q5:エネルギー密度など性能面は良いのか?
Q6:どのような用途に使うのか?
Q7:いつから量産を開始するか?
Q8:他社との協業状況は?
Q9:今後のロードマップは?
Q10:EV用バッテリーに使う予定は?
Q1:全樹脂電池とは何か?
電極を含めてほぼすべてを樹脂で形成するLIBのこと。正極と負極の活物質の粒子を、ゲル状の高分子膜で覆い、粒子状の導電助剤や導電性繊維と混ぜて正極または負極の合材とする。さらに、正極と負極の合材を、セパレーターを挟んで重ね合わせ、正負極の表面それぞれに集電体を配置してセルとする。一般的なLIBでは、集電体の横からタブを出し、ここを電極とするが、全樹脂電池ではセルの表面が電極となる。この構造をAPBは「バイポーラ」と呼んでいる。
慶應義塾大学・特任教授の堀江英明氏が考案し、低コストの大量生産技術を確立するために2018年にAPBを設立。共同開発先の樹脂メーカーである三洋化成工業が出資・子会社化した。
Q2:なぜ安全なのか?
全樹脂電池は、従来のLIBと比べて異常時の信頼性が高い。たとえば、負極に発生したデンドライト(樹状突起)が正極に達し、破損を招く短絡現象のようなリスクが低いとする。なぜなら樹脂は電気抵抗が大きく、大電流が流れないためである。
短絡を起こした時、従来型LIBだと金属部材を通して大電流が流れ、急激な内部発熱が起き、最悪発火する。全樹脂電池は、「中に金属のバルクのパーツがないのでデンドライトができず、またたとえ短絡があったとしても抵抗が大きい樹脂を使うので一箇所に大電流が流れない」(APB代表取締役CEOの堀江英明氏)
Q3:従来型LIBとの製造工程の違いは?
大幅に短縮する。活物質の塗工後の乾燥工程が不要など、従来型LIBよりも少ない工程で製造できる。