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 世界のビジネスが「カーボンニュートラル」に向けてかじを切った。つい最近まで後回しにしていた「脱炭素」への取り組みが、あらゆる業界で必須となり、また常識となっている。背景には何があるのか、またどこに商機があるのか。知っておきたい項目をまとめた。

Q1:カーボンニュートラルとは何か? なぜ対応が必要なのか?
Q2:どのような次世代電池があるのか?
Q3:なぜ今、水素社会が注目されているのか?
Q4:マイクロEVの主な用途は?
Q5:カーボンプライシングとは何か?
Q6:脱炭素モビリティーは本当に使いやすいか?
Q7:メタネーションが注目されるのはなぜか?
Q8:浮体式洋上風力発電を着床式と比べた利点は?
Q9:スマート交通を実現する新サービスとは何か?
Q10:レジ袋有料化の時代に消費者に選ばれる材料は?

Q1:カーボンニュートラルとは何か? なぜ対応が必要なのか?

 カーボンニュートラルとは、温暖化ガスの排出と吸収(または除去)を調整し、排出量と吸収量をほぼ等しくすることで、大気中の炭素(または二酸化炭素、CO2)濃度を一定に抑える取り組みのこと。炭素中立とも表現される。ポイントは「排出量 - 吸収量(or除去量)= ゼロ」という数式。すなわち、排出量をゼロにすることは難しい業界もあるため、差し引きして正味ゼロにすれば「全体としてゼロ」(菅首相の所信表明演説)とみなせるというのが、カーボンニュートラルの“心”だ。

 なぜ対応する必要があるのか。一言で言えば、「カーボンニュートラルでなければ、ビジネスができないから」。こう表現しても大げさではない時代に突入した。背景には、ビッグマネー(巨額資金)の動きがある。新型コロナウイルスの感染拡大で沈んだ経済を立て直すために、各国が脱炭素を重視する投資で「グリーンリカバリー」を打ち出した。欧州連合(EU)は70兆円(7年間)、米国は200兆円といった規模の資金を主に環境分野に投じる。世界の民間投資も脱炭素に集中投下されている。例えば、世界のESG(環境・社会・企業統治)投資額は3000兆円を超えており、日本だけでも300兆円もあってここ数年で急増している。

 既に、カーボンニュートラルへの対策が不十分な会社は製品の購買対象から外されたり、役員の報酬を減らしたりする動きが出ている。2020年10月の菅首相の所信表明演説を境に、日本もCO2削減に対して言い訳や先送りができない社会にガラリと変わったというわけだ。逆に、ビジネスチャンスは大きい。経済産業省がはじき出した経済効果は、日本だけで2050年に年額190兆円にも達する。

Q2:どのような次世代電池があるのか?

 主な候補は、全固体リチウムイオン2次電池(以下、全固体電池)や全樹脂電池、水系リチウムイオン2次電池、リチウム硫黄2次電池(Li-S2次電池)など。現行のリチウムイオン2次電池に関して性能の限界が顕在化してきている今、これらの次世代電池に注目が集まっている。

 次世代電池は、用途に応じた適材適所の使い方が想定されている。例えば、電気自動車(EV)には、体積エネルギー密度のポテンシャルが高い全固体電池が有望だ。車体の限られた空間に駆動用2次電池を収納しなければならないからである。一方、定置用蓄電システムは大容量にする必要があるため、低コストな全樹脂電池や水系リチウムイオン2次電池が向く。

 実用化はまだ先になりそうだが、Li-S2次電池も有力な次世代電池の1つ。リチウムイオン2次電池の高コスト要因であるコバルト(Co)やニッケル(Ni)といった希少金属を正極材料に使わず、安価な炭素(C)と硫黄(S)を使用するためだ。加えて、質量エネルギー密度も向上できるとみられており、ビルの高層階にも蓄電設備を築ける可能性がある。

Q3:なぜ今、水素社会が注目されているのか?

 注目を集めるのは、市場規模が今後急拡大すると予測されているからだ。例えば、水素インフラの世界市場は2050年に160兆円規模になるとの見方がある。水素は脱炭素を実現するエネルギー選択肢の1つ。とりわけ日本は、水素を多用途で有効活用する「水素社会」に向けてかじを切っている。

 水素は、空気に対する比重が0.0695と最も軽い気体かつ、拡散速度が速い。自然発火温度が570℃と高いため、正しく使えば安全なエネルギーといえる。化石燃料やバイオマス、自然エネルギーを使った多様な製造方法が存在し、工場の生産過程で「副産物」としても取り出せる。

 代表的な活用方法の燃料電池(Fuel Cell、以下FC)は、水素と酸素の化学反応で発電し、水を排出する仕組み。トヨタ自動車は、FCをクルマに搭載した燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を手掛け、トラックやバス、鉄道や船舶などに同技術を広げつつある。「日本のFC分野の特許出願件数は世界1位」(経済産業省)。

 ただし、全てが順風満帆とはいえない。水素の大量供給と大量消費を実現するためには課題もある。特に、「利用」「供給」「製造」の3段構えの技術進歩は欠かせない。

Q4:マイクロEVの主な用途は?

 気軽な街乗りを自動車メーカーは想定している。例えば、日常生活での送り迎えや買い物、高齢者の通院、法人利用での訪問巡回などだ。反対に、高速道路の運転や遠隔地へのドライブには向いていない。

 マイクロEVとは、軽自動車よりもコンパクトで小回りのきくEVのこと。超小型EVや低速EV(LSEV:Low Speed EV)とも表現される。2030年代半ばまでに脱ガソリンエンジン車の方針を日本政府が打ち出したこともあり、世間の注目を集めている。マイクロEVは今、続々と市場に登場している。

 例えば、トヨタ自動車は「C+pod(シーポッド)」の販売を開始した。一般的な軽自動車より一回り小さい。乗車定員は2人で、最小回転半径は3.9mと小さく、曲がり角や車庫入れ時などでも切り返しが少ない。

Q5:カーボンプライシングとは何か?

 カーボンプライシングは、CO2の排出にコスト負担を加える制度の総称。簡単に言えば「炭素の値付け」だ。代表的なものに炭素税や排出量取引があるが、特に注目を集めているのが「炭素国境調整措置」である。

 炭素国境調整措置は、気候変動対策を進めず温暖化ガスの削減が不十分な国・地域で造られた製品の輸入に対して課金・課税する一方で、温暖化ガスの排出が少ない国内製品の輸出に炭素コスト分の還付(補助金の支給)などを実施する制度のこと。貿易相手国に対し、温暖化ガス対策などを促す狙いもある。

 注目すべきは、EUが炭素国境調整措置の導入に向けて動きを速めていることだ。2021年6月に検討案を提出し、2023年までの導入を目指すという。世界をリードするEUの動きからは目を離せない。