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 東芝は2021年4月7日、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズなどから買収提案を受けたと発表した。東芝は量子暗号など、国家安全保障にも関わる技術を開発する。現在は「初期提案を受けたばかり」(同社)の段階だが、実現した場合、国家安全保障に関する技術の海外移転リスクを政府がどう判断するのかが焦点になる可能性がある。

 英ファンドによる買収が実現すれば東芝の株式は非公開化され、経営の迅速化や安定化などのメリットが得られる。その一方で東芝は量子暗号通信や原子力発電所、半導体など国家安全保障で重要な技術を保有している。日本政府との調整は必須だ。

外為法では場合によって出資の中止勧告も

 日本では、国の安全保障を脅かす恐れがある国内企業への外資の投資に対し、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」によって技術移転を規制している。20年に施行した改正外為法では、安全保障の観点から規制を強化した。安全保障に関わる事業を営む国内企業に対し、外資が1%以上の株を保有する場合には、国の安全に関わる技術情報の流出や、事業活動が失われることを防ぐという観点で事前審査。場合によっては出資の中止を勧告できる。

 東芝は、外為法で事前届け出・審査が必要な「コア業種」に指定されている事業を多く展開する。コア業種に指定される事業は、武器や航空機、宇宙関連、原子力関連、軍事転用可能な汎用(はんよう)品、サイバーセキュリティー関連などだ。「理論上絶対に盗聴されない」とされる量子暗号通信や、半導体事業なども国家安全保障に関わるため審査の焦点になる可能性がある。

 例えば、東芝の量子暗号通信事業は関連特許数が世界トップであるなど、この分野では世界的にリードしていると言われる。量子コンピューターでも第三者による盗聴が不可能とされる量子暗号通信は、高い安全性を実現できる。そのため、国家機密や金融、医療情報などの重要情報を送受信する用途を見込む。こうした安全保障上、重要な技術については「他国に頼らず自前で技術を持っておく必要がある」(総務省幹部)という見方もある。

 半導体事業についても、技術移転の観点から外資への売却には国の厳格な審査が必要という見解が過去に政府から示されている。東芝は半導体事業のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)について、議決権ベースで4割の株式を持つ。米中貿易摩擦が続くなかで、日本にとっても半導体は重要産業だ。

 ただし今回の英投資ファンドによる東芝の買収提案は、物言う株主との対立から脱却化し、経営の安定化につながる可能性もある。国家安全保障上の技術移転リスクを重きに取るのか、それとも経営の安定性を重視するのか。東芝が買収を受け入れた先に、政府との調整という新たなハードルが待ち構えている。

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