「(社会課題の解決などには)人間の身体が喜ぶかどうかを判断基準にしていくべきなのではないか」――。こう語るのは、2021年4月1日付で新たにパナソニックのCTO(最高技術責任者)に就任した小川立夫氏だ(図1)。小川氏は21年4月末にオンライン会見を開催し、CTOの立場から見た、今後のパナソニックの経営方針などを語った。
現在、世界ではエネルギーや食料、水の持続可能性や高齢者ケアなど、さまざまな社会課題があふれている。複雑な課題が発生している現代において、これまで求められていた問題に素早く答える能力から、「良質な問いを(自ら問いかけて)抱え続ける能力が重要になっている」と小川氏は指摘する。
その上で小川氏は、人間を知っていくために、「心理学などを用いて心身に踏み込まなくてはいけない」と続ける。この言葉の通り、パナソニックは人間の理解を深めていく一環として、ロボティクス技術などを利用し新たな価値の創出を目指す研究組織「Aug Lab(オーグ・ラボ)」を19年4月に設立した。
Aug Labの目的の1つが「人間の能力の引き上げ」だ。「ロボティクス技術で精巧な手を生み出すことは開発テーマとしては面白い。しかし人間と競争していくには、正確性と速さが求められる。そのような道具よりも、ユーザーの潜在能力を引き上げて自ら行動できるような技術の方が顧客にとって価値がある。道具で代替するのではなく、自らやりたいことをサポートすることで、QoL(Quality of Life)の向上を狙えるのではないだろうか」(同氏)。