ヤマハ発動機は2021年7月19日、「ヤマハ発動機グループ環境計画2050(以下、環境計画2050)」におけるCO2排出量の削減目標の見直しを発表した。50年までに事業活動を含む製品ライフサイクル全体のカーボンニュートラル(炭素中立)を目指す目標を新たに設定した。
同社は18年に環境計画2050を発表し、CO2排出量を50年に10年比で50%減らす目標を掲げていた。世界的な脱炭素化の動きを受けて、目標を大幅に前倒しした。ヤマハ発動機社長の日高祥博氏は19日に開いた「環境技術説明会」で、「各国が定める温暖化ガスの削減目標は非常に高く設定されている。実現に向けた対策は企業にとっては更なる成長の機会であり、サバイバルともなり得る大きな課題だと認識している」と語った(図1)。
CO2排出量の削減は、製品ライフサイクルを3つの「スコープ」に分けて検討するのが一般的である。「スコープ1」は燃料の燃焼などの事業者自らによる直接排出を、「スコープ2」は他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出を指す。スコープ1、2以外の間接排出が「スコープ3」で、製品の使用や廃棄、物流、人の移動など多岐にわたる。
最大の課題はアジアの2輪車
ヤマハ発動機は今回、企業活動における自社の排出(スコープ1と2)とスコープ3の2つに分けてそれぞれ目標値を設定した(図2)。いずれも10年を基準年とし、50年にカーボンニュートラル実現を目指す。不足分は「カーボンネガティブを実現する技術の開発を進めていく」(日高氏)ことで対応する方針だ。
前者のスコープ1と2に関しては、CO2排出量を30年に50%減、50年に86%減とする。ライフサイクル全体のCO2排出量の内訳で98.2%を占めるスコープ3は、30年に24%減、50年に90%減とする。
主に製品使用時のCO2排出量削減が求められるスコープ3(図3)。特に難度が高いのが、ヤマハ発動機の主力事業である2輪車だ。2輪車販売の85%がアジア地域で、小型・低価格な製品が求められる市場で電動化を進めていくのは難しい。同社は電気自動車(EV)バイクだけでなく、「内燃機関の熱効率の改善や液体合成燃料の普及への備えも進めていく」(同社取締役上席執行役員で技術・研究本部長の丸山平二氏)という。
CO2削減量の不足分を補うカーボンネガティブ技術に関して社長の日高氏は「当社にはなく、自分たちで開発しても50年に間に合わない」と認める。そこで、環境資源分野に特化した自社ファンド「Yamaha Motor Climate Scrum Fund」(仮)の立ち上げを決めた。22年に設立予定で、運用資金は総額で1億ドル(1ドル=110円換算で110億円)である。「ファンドを通じて技術を取り込み、スピードを上げていく」(同氏)方針だ。