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 2021年7月20日、米Amazon.com創業者のジェフ・ベゾス氏が宇宙旅行に出発する。同氏が創業した米Blue Origin(ブルーオリジン)のロケットを使っての初めての有人宇宙飛行だ。ベゾス氏に先立って英Virgin Group(ヴァージン・グループ)創業者のリチャード・ブランソン氏も、自社開発の宇宙旅行に成功したばかりだ。

 ここに来て宇宙旅行に加え、人工衛星などを使って地球の隅々までに通信網を行き渡らせる「宇宙通信」も動きが激しくなっている。起業家のイーロン・マスク氏が率いる米SpaceX(スペースX)の巨大通信衛星網「Starlink(スターリンク)」や、ソフトバンクが提携する英OneWeb(ワンウェブ)などだ。なぜ名だたる企業が宇宙通信に参入するのか。知っておきたい項目をまとめた。

Q1:なぜイーロン・マスクらが宇宙通信に注目?
Q2:イーロン・マスク氏の「スターリンク」はどんなサービス?
Q3:低軌道(LEO)衛星は何が利点?
Q4:低軌道衛星を使った通信サービスにはどんな企業が参入?
Q5:低軌道衛星のコストは?
Q6:HAPSはどのように通信エリアをつくる?
Q7:ソフトバンクが目指す月500円以下の宇宙通信とは?
Q8:NTTとスカパーJSATが目指す「宇宙データセンター」とは?
Q9:6Gと宇宙通信の関係は?
Q10:宇宙通信の課題は?

Q1: なぜイーロン・マスクらが宇宙通信に注目?

 地球上の30億〜40億人がまだインターネットにアクセスできていないと言われるからだ。日本の携帯電話で言えば、人口カバー率は99%であるものの、人が住んでいない山間部などを含めた面積カバー率については最大でも約70%とされる。陸上を離れた海上においては、まだ十分な通信手段がない。

 こうした地域に鉄塔を建ててエリアをつくることは、経済合理性に合わない。そこで人工衛星などを使って上空から一気にエリア化しようというのが、宇宙通信に多くの企業が注目する理由だ。イーロン・マスク氏は、同氏が進めるスターリンクについて「地上の光ファイバーや5G(第5世代移動通信システム)を補完する存在」と説明する。

 ここに来て宇宙開発が、国家主導から民間主導に移り変わり、コストを抑えた開発が進みつつある点も、宇宙通信を活気づかせている要因だろう。

Q2:イーロン・マスク氏の「スターリンク」はどんなサービス?

 注目を集める宇宙通信の中で先頭を走るのが、イーロン・マスク氏が率いる米スペースXのスターリンクだ。

 スターリンクでは、地表からの高度560kmの周回軌道(低軌道)上に約1万2000基の人工衛星を打ち上げ、世界全体をカバーする通信網をつくる計画だ。既に約1500基の人工衛星を打ち上げ済みであり、21年2月には限られた地域やユーザーを対象にしたパブリックベータ試験を開始した。21年6月末、世界最大級のモバイル展示会「MWC Barcelona 2021」の基調講演にオンライン登壇したマスク氏は「既に約6万9000人が利用しており、1年以内に50万人以上のユーザーを獲得できる」と語った。

 スターリンクは、地表から近い低軌道に多数の人工衛星を周回させ、互いに連携させることでエリアをつくる「衛星コンステレーション」と呼ぶ方式を活用する。スマートフォンのような一般的な端末ではなく、専用の送受信端末を用いて通信する。通信速度は現在のところ、数十Mビット/秒程度のようだ。遅延時間についても「20ミリ秒以下に抑えられている」(マスク氏)という。スターリンクの価格は月約100ドル(約1万1000円)であり、21年後半から対象地域を広げるとしている。

Q3:低軌道(LEO)衛星は何が利点?

 スターリンクなどが利用する低軌道(Low Earth Orbit : LEO)衛星とは、その名の通り、地表から160k〜2000kmの低軌道を周回する人工衛星のことを指す。古くから実用化が進む人工衛星は、地表から3万6000kmという非常に高い位置を飛ぶ静止軌道(Geostationary Orbit:GEO)衛星が多い。

 低軌道衛星を使った通信のメリットは、地表との距離が近いことから通信の遅延が抑えられ高速通信を実現しやすい点だ。人工衛星1基当たりのコストも比較的安価で、静止軌道衛星の10分の1程度にできると言われている。

 静止軌道衛星を使った通信は、地表から距離が離れているため、数百ミリ秒の遅延が発生することが多く、通信速度も限られているという課題があった。もっとも低軌道衛星で地球全体をカバーする通信網をつくるには、数百から数千の人工衛星が必要になる。静止軌道衛星では数基で地球の大部分をカバーできる。

人工衛星の高度による特徴の違い
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人工衛星の高度による特徴の違い
(出所:ASIAN DEVELOPMENT BANK「Digital Connectivity and Low Earth Orbit Satellite Constellations」April 2021)