ルネサス エレクトロニクスは、車載HDカメラの映像をアナログ伝送する技術「Automotive High-Definition Link」(以下、AHL)を開発、同方式のエンコーダーICとデコーダーICの2つを発売した ニュースリリース 。2つのICを利用することで、NTSC方式アナログ映像の伝送に向けた安価なケーブルやコネクターを使って、HD映像を伝送できる。サラウンドビューやリア・カメラ・システムなどで使う車載ビデオバスのコスト低減に寄与する。
同社によれば、HD映像をデジタル伝送する場合、伝送周波数帯域が広いため、厳重にシールドされた高価なケーブルやコネクターが必要なほか、5〜7年での交換も求められる。さらに、曲げ半径の制約により配線の引き回しが難しいという課題もある。一方、AHLによるアナログ伝送では、伝送周波数はデジタル伝送の1/10以下と低く、アナログビデオ伝送に使っていたシールド無しのより対線(UTP:Unshielded Twisted Pair)ケーブルやコネクターで済み、ビデオバスのコストが抑えられる。配線の引き回しも容易である。AHLでの映像伝送距離は最大30mとする。
AHLでは、ビデオ信号とは独立した制御信号も扱える。1対のUTPケーブルで、ビデオ信号の伝送に加えて、カメラの初期化やプログラム、監視などが行える。制御信号専用のケーブルやコネクターが不要のため、コストをより抑えられるとする。さらにAHLは、機能安全性の担保にも効くという。
ルネサスによれば、リアビューカメラ画像のデジタル伝送の場合、ケーブルやコネクターが劣化すると、信号が弱まりマクロブロックが表示され、表示領域の大部分が見えなくなってしまうことがある。一方、AHLではケーブルを同じ条件で使用した場合で比較すると、映像の色やコントラストが変わるものの、全画素が表示され、車両後方の物体や人物をほぼ正確に識別可能なため、安全性を維持できるとする。
車載カメラのHD映像をアナログ伝送する技術は、2018年に米Analog Devices(アナログ・デバイセズ)が「C2B(Car Camera Bus)」として開発している*。NTSC方式アナログ映像の伝送に向けたUTPケーブルやコネクターが利用できることや、ビデオ信号と制御信号を同じUTPケーブルで扱えることなど、AHLとC2Bの特徴はほぼ同じである。
ただし、ルネサスはAHLをC2Bとは独立して開発したとする。開発時期の差があったり、車載半導体はカスタム仕様である場合が多かったりするため正確な比較は難しいが、例えば、AHLは最大4M画素の映像を扱えるのに対して、C2Bの18年発表当時の資料では最大解像度は2M画素としていた。
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