KDDIは2021年9月13日、起業家のElon Musk(イーロン・マスク)氏が進める米Space X(スペースX)の衛星ブロードバンド事業「Starlink(スターリンク)」と業務提携すると発表した。まずはスターリンクの持つ100Mビット/秒クラスの高速通信を生かし、山間部や島しょ地域(離島)などのau基地局のバックホール回線として活用する。将来的にはIoTや法人用途への回線提供も検討する。地上からではカバーしにくい地域を、宇宙から一気にカバーしようという取り組みはソフトバンクや楽天グループ、NTTグループも進めている。4社それぞれの提携先やアプローチが見えてきた。
「実は私は(衛星電話サービスの)イリジウムの立ち上げメンバーの一人だった。2年ほど前にスペースXとの電話会議でお話をもらい、このようなプロジェクトには、ぜひ参画したいと返事をした」。KDDI社長の髙橋誠氏は、今回のスペースXとの提携の経緯について、このように打ち明けた。
スペースXのスターリンクは、参入が相次ぐ高度160k〜2000kmの低軌道(Low Earth Orbit:LEO)を周回する人工衛星を使った通信サービスにおいて、世界の先頭を走る存在だ。
スターリンクは、地表からの高度560kmの周回軌道上に最終的に約1万2000基の人工衛星を打ち上げ、世界全体をカバーする通信網をつくる計画だ。「衛星コンステレーション」と呼ぶ人工衛星を互いに連携させる方式を活用する。既に約1500基の人工衛星を打ち上げ済みであり、21年2月からはベータ試験サービスを開始。現時点で約10万人が利用しているという。
スターリンクは、低軌道衛星を使うことで、高度3万6000kmの静止軌道(Geostationary Orbit:GEO)人工衛星の通信サービスと比較し、遅延を抑えられ高速通信が可能になる点が特徴だ。スターリンクの通信速度は100Mビット/秒クラスといわれている。スターリンクは、スマートフォンのような一般的な端末ではなく、専用の送受信機を利用する。
KDDIはスペースXとの提携で、まずは2022年をめどに、山間部や島しょ地域約1200カ所の基地局バックホール回線としてスターリンクを採用する計画だ。「山間部や島しょ地域の基地局のバックホール回線は、コストの問題から太い回線を用意できなかった。スターリンクの高速回線を使うことで、日本中どこでも高速通信を届けられる環境にしたい」と髙橋氏は続ける。
人工衛星を使った通信サービスに必要な地上局(ゲートウエイ局)の準備についても、KDDIがスペースXに協力する。「KDDIは長く衛星通信に携わっており知見がある」(髙橋氏)。総務省から受けた実験試験局免許を活用し、既にKDDI山口衛星通信所にスターリンクの地上局を構築。両社で技術検証を進めるという。
スターリンクは、一般消費者向け衛星ブロードバンドサービスも提供する計画。髙橋氏は「スターリンクはIoTや法人向けにも大きく活用できるコンセプトだ。あくまでサービス主体はスペースXになるが、日本市場についてはKDDIがよく分かっているので、両社で話を進めながら市場を広げていきたい」とした。