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 英Arm(アーム)は、ソフトウエア定義の自動車に向けたオープンなソフトウエアアーキテクチャー「SOAFEE:Scalable Open Architecture For Embedded Edge」を2021年9月15日(現地時間)に発表した ニュースリリース 。業界標準のオープンなソフトウエア開発フレームワークを構築することで、ADAS(先進運転支援システム)/自動運転、インフォテインメントなどによって増加の一途をたどっている車載ソフトウエア開発の負荷低減を狙う。SOAFEEは特定のハードウエアに依存しない建前だが、同社は、ArmコアベースSoCでの活用を前提に、今後の取り組みを進めていくとみられる。

今回の発表の骨子
今回の発表の骨子
(出所:Arm)
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SOAFEE(Scalable Open Architecture for Embedded Edge)の効果
SOAFEE(Scalable Open Architecture for Embedded Edge)の効果
従来(上)に比べてSOAFEEを採用することで(下)、開発工数が減少し開発期間が短くなる。また、開発環境がクラウドにあるため、開発したソフトウエアのランタイム版をOTA(Over The Air)で配布することも容易だとする。(出所:Arm)
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 SDN(Software Defined Network)で知られるソフトウエア定義のネットワーク装置など、IT業界におけるソフトウエア定義とは、各メーカー独自の装置(アプライアンス)から、x86サーバーベースの装置への移行を意味していた。これと同じように、車載プロセッサーIC(マイコンやSoC)をArmのCPUコアベースにするというのが、Armの狙いとみられる。米NVIDIA(エヌビディア)によるArm買収プロセスは当初予定より遅れているようだが、Armが米NVIDIA傘下に入れば、NVIDIAの車載AI開発での実績が、車載プロセッサーにおけるArmコアの普及を加速させるだろう。

 車載プロセッサーICでは、インフォテインメントシステムなど情報系SoCでArmのCPUコア「Cortex-A」が多く使われ、ボディー系(ワイパーやドアロック、ライト/ランプなど)制御マイコンで「Cortex-M」品が増えてはいるものの、Armコアを集積しない製品も健在である。例えば、ルネサス エレクトロニクスの「クルマの走る、止まる、曲がる」を扱う制御系の車載マイコン「RH850」や独Infineon Technologies(インフィニオンテクノロジーズ)の車載マイコン「AURIX TriCore」がそれぞれ独自コアを使う。また、伊仏合弁STMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)やオランダNXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)にはPOWERコア集積の車載マイコンがある。Armはリアルタイム処理に向けたCPUコア「Cortex-R」を用意しているが、意欲的に制御系車載マイコンに採用してきたのは米Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)くらいだろう。

 Armによれば、SOAFEEの整備は初期段階にあり、今後、趣旨に賛同するパートナー企業と発展させていくという。同社としては、まず、Armコア集積の情報系SoCやボディー系マイコンでSOAFEEを適用してもらい、その効果を業界に知らしめる。そして、制御系SoC/マイコンの独自コアをArmコアに置き換えて、車載プロセッサーICのほとんどをArmコアベースにし、SOAFEEベースのソフトウエア開発を業界標準にしたいところだろう。同社によれば、SOAFEEは車載ソフトウエアだけでなく、さまざま応用分野に適用できるため、ロボットや産業機器への展開も計画しているとのことだった。なお、SOAFEEで開発したソフトウエアが実際の車載プロセッサーICに搭載されるまでに時間がかかることはArmも承知していて、SOAFEEで開発したソフトウエアが搭載されたクルマが公道を走るのは「早くても5~6年先だろう」(同社)とした。