NTTは2021年9月28日、2040年度までに温暖化ガス排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラル(脱炭素)を実現する新たな目標を発表した。日本政府が50年までに脱炭素社会を実現するという目標を踏まえ、10年前倒しでNTTグループ全体で脱炭素を実現する。実現の鍵を握るのが、同社が25年ころから段階的な導入を目指す、次世代情報通信基盤構想「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network、アイオン)」と、再生可能エネルギーの導入だ。IOWN開発や導入のスピード感が、NTTグループ全体の脱炭素実現を左右しそうだ。
「環境負荷ゼロと経済成長、相反する目的の同時実現を目指したい」。NTT代表取締役社長の澤田純氏は、同日発表した新たな環境エネルギービジョンについてこう語った。
情報通信分野をビジネスの中心とするNTTグループにとって、脱炭素実現は簡単ではない。「データトラフィックの増加に伴って電力量も増えていく。成り行きに任せると、温暖化ガス排出量が40年度に13年度比で約1.8倍に増えると想定している」と澤田氏は語る。
このような電力増加トレンドも踏まえ、NTTグループ全体では3つの方策によって40年度脱炭素実現を目指す。まずは継続的な省エネの取り組みだ。これによって40年度に13年度比で温暖化ガス排出量を10%削減する。
続いて再生可能エネルギーの積極導入である。エネルギー事業を手がけるNTTアノードエナジーを中心に、自前の太陽光発電や洋上風力発電設備などを広げ、グループ全体の再エネ利用を加速する。澤田氏は「30年度には電力使用量の80%を再生可能エネルギーで賄う。その内半分を自社所有の電源から調達する計画」という。最終的に40年度に、20年度比で7倍の再生可能エネルギーを導入し、この時点で再生可能エネルギーによって温暖化ガス排出量を45%削減する
残る温暖化ガス排出量45%削減を担うのが、NTTが一丸となって推進するIOWNである。IOWNは、電子技術(エレクトロニクス)と比べて省エネルギーという特性を持つ光技術(フォトニクス)を活用し、世界のインターネットや情報処理基盤を変革しようという野心的な構想だ。
IOWN構想の鍵となるのが、電子技術と光技術を融合させた光電融合技術である。光電融合とは、光信号と電気信号を不可分に融合する技術のこと。光技術は現在、長距離・大容量のネットワーク伝送分野で実用化されている。そんな光技術を、サーバー内のCPUやアクセラレーターを結ぶ配線、CPUと回路を結ぶI/O部分、将来的にはCPUの内部まで活用。電気信号から光信号に変えることで、通信や情報処理にかかる消費電力を100分の1に抑えることを目標としている。
NTTでは24年ころまでにIOWNの技術仕様を策定する計画だ。IOWNの要素技術を活用した低消費電力なホワイトボックス機器などは、25年以降に導入段階に入る見込み。澤田氏は「2020年代の中ころからIOWNの(自社)導入を進め電力消費量を削減する。これによって40年度のカーボンニュートラルを達成する」と説明する。
澤田氏はIOWNについて、NTTにとどまらず、日本全体や世界の温暖化ガス削減にも貢献すると強調する。国内外で半導体におけるIOWN要素技術(光電融合技術など)が50%以上普及した場合、40年度には日本全体で4%、世界全体で2%の温暖化ガス削減に貢献できるとする。
IOWNは、電力消費量削減のほか、世界に対抗する手段、経済安全保障など数々の狙いを含む。今回発表した新たな環境エネルギービジョンによって、NTT自身の脱炭素実現に向けても、IOWN構想が欠かせない位置づけとなる。