NTTは2021年9月30日、光を利用して組み合わせ最適化問題を解く計算機である「コヒーレントイジングマシン(以下、CIM)」で、スピンに相当する光パルス数を従来の50倍に当たる10万に引き上げたと発表した。計算速度の向上に加えて、多様な解分布を得られるようになったため、応用範囲を広げて実用性を高めた。光計算機として「世界最大規模」(同社)とし、22年度を目標にビジネス化を検討していく考えだ(図1)。
巡回セールスマン問題などの組み合わせ最適化問題は、従来のコンピューターでは計算に膨大な時間がかかるため、専用機の開発が活発化している。代表的なのは、シミュレーテッドアニーリング(SA、焼きなまし法)や量子アニーリング(QA)などの手法だ。カナダD-Wave Systemsが11年に発表したQAマシン「D-Wave」を皮切りに、東芝や日立製作所などもしのぎを削る。
NTTと国立情報学研究所(NII)が開発を進めるCIMは光を使った専用機だ。常温で運用可能であるため、D-Waveのような超伝導量子ビットを使う専用機に対しては、運用コストや製品サイズに優位性がある。
「SAをベースとするようなデジタル計算機と比べても、多様な組み合わせの解分布が得られる。創薬などでは実用性が高い」とNTT 物性科学基礎研究所 量子科学イノベーション研究部 上席特別研究員の武居弘樹氏は語る。実際、解分布に加えて計算速度についても優位性を確かめられたという。NTTなどが実施した実証実験では、組み合わせ最適化問題の1つである「最大カット問題」に適用し、CPU上で実装したSAと比較して「約1000倍の速度」(同社)で解を得られた。
これらの専用機はいずれも、組み合わせ最適化問題の選択肢をスピンの向きに置き換える「イジングモデル」を使う。CIMでスピンの向きに相当するのが、レーザーパルスの位相だ。スピンの上・下といった向きに相当する0・πといった位相の組み合わせが、エネルギー最小の状態で安定することを利用して問題を解く(図2)。
開発したCIMは、1周5kmの光ファイバーの輪の中に特殊な光発信器で約10万個の光パルスを流す。約10万個の光パルスは5kmの光ファイバーを数十から1000周する間に相互に作用し合い、全体が最も安定する位相の組み合わせで安定する。この組み合わせが、問題の答えとなるわけだ(図3)。