バイクの「Kawasaki(カワサキ)」が電動化にかじを切る。川崎重工業は2021年10月6日、バイクやエンジン部門を分社化した新会社、カワサキモータース(兵庫県明石市)の事業方針説明会で、35年までに先進国向けの主要車種を電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)仕様に置き換えると表明した。まずは10車種以上を開発し、25年までに投入する。
「需要変化に素早く対応できる意思決定スピードの向上が成長への重要な課題だ」――。事業方針説明会に登壇した川崎重工社長の橋本康彦氏はこう語気を強めた。背景にあるのが世界的なカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)需要の急拡大。エンジン会社の側面がある同社には逆風ともいえるが、危機こそ好機と位置付けて電動化への方針を固めた。
しかしながら、一般的にバイクの電動化はクルマに比べて難易度が高いとされる。EV仕様では、車両寸法や質量の関係性から電池パックの大型化が難しいため、1充電当たりの航続距離を延ばしにくい。HEV仕様では航続距離の不安はないものの、環境への貢献効果が車両価格に対して低いといった、いわゆるコストパフォーマンスの課題が存在していた。
そのため、バイク世界シェア首位のホンダや、ヤマハ発動機の場合、電動車のラインアップは小型車を中心とした限定的なものにとどまっている。大型バイクのEV仕様では米Harley-Davidson(ハーレーダビッドソン)が攻勢をかけているが、こちらも本格的な多車種展開には至っていない。
足元では川崎重工も参画する交換式電池パックを使った取り組みが進んでいる。19年4月、ホンダを中心に、川崎重工とヤマハ発動機、スズキの4社で協議体を設立。約2年後の21年3月には相互利用を可能にする標準化への合意を発表し、現在は技術的検証を進めている。
交換式電池パックは、充電済みのものを乾電池のように入れ替える仕組み。交換時間は短いケースで10秒未満。EVの弱点とされる充電時間、すなわち車両の非稼働時間を大幅に減らせる。1個の交換式電池パックを多用途で使い回せばコストに優れる上、環境にも良い。カワサキモータースが25年までに投入する車種の中には、交換式電池パックを活用した車両も一部含まれる可能性がある。
エンジンでも脱炭素
さらに同社は、既存のバイク用エンジンにバイオ燃料やe-fuel(再エネ合成燃料)といったカーボンフリーの燃料を適用して脱炭素を狙う。これら燃料の製造や輸送では、エネルギー産業に密接な川崎重工グループの強みを生かせると見込む。
加えて、水素を燃料として使う水素エンジンの研究開発も強化する方針だ。水素エンジンはガソリンエンジンと質量面で大差はなく、車両の走行性能の低下を招きにくい。「大型バイクのカーボンニュートラル実現には有効な手段」(カワサキモータース社長の伊藤浩氏)と位置付けている。