「なぜ違法にアップロードされている海賊版サイトで漫画を読むのか」――。その問いに対し、日本語以外の言語を使用する多くの人は「正規版の翻訳が存在しないから」「正式な翻訳の公開が遅いから」と回答する(図1)。漫画に特化した機械翻訳技術の開発を手掛けるスタートアップMantra(東京・港)は、自社で開発する漫画の翻訳支援技術「Mantra Engine」を利用し、こうした海賊版漫画サイトの問題解決に挑んでいる。
小学館の「マンガワン」編集部とMantraは2021年11月1日、Mantra Engineの技術を利用し、漫画作品「ケンガンオメガ」などの英語版制作を開始した(図2)。その結果、海外の海賊版サイトの一部が更新停止や作品の取り下げに至ったという。
Mantraらが今回、違法アップロード問題の解決として最初に取り組んだのが、熱心なファンが漫画を翻訳する海賊版サイトだ。海外の海賊版サイトは、広告モデルで収益を上げるサイト以外に、一部ファンが早く翻訳版を読みたい読者のために、収益モデルなしで漫画を翻訳するサイトがある。「日本語の言葉の上に無理やり他言語を載せるような汚い翻訳が出るのが許せず、愛ゆえに翻訳作業するファンもいるようだ」とMantra Finance/Customer Successの関野遼平氏は指摘する。
Mantra Engineは、オリジナルの漫画原稿から吹き出しを自動検出し、セリフ前後の文脈を認識しながら、異なる言語へと自動翻訳できる。すでに約10社が利用しており、翻訳支援技術によって素早い漫画翻訳が可能だ。翻訳作業以外にも「海賊版はまず日本語の削除などが必要。正規版の制作は出版社から日本語を抜いたデータも提供してもらえるため、単純に作業量が少なくなっている」(関野氏)。正規版は海賊版のように何度も画像をコピーしないため、高画質なコンテンツであるという強みもある。
Mantraと小学館はこれらの強みがある英語版漫画を日本語版と同時公開することで、熱心なファンが翻訳する海賊版サイトに、更新を停止してもらうように交渉した。すると「相手はすぐに高画質な正規版が出るなら更新しないと応じた。あるサイトは正規版のリンク先を掲載するようにもなった」(関野氏)という。