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 「医療分野にはもっとテクノロジーが介在する余地がある。人間の脳・認知能力に課題を抱える人々に向けて、娯楽と医療という異なる産業を組み合わせ、新たな企業を生み出した」ーー。

 デジタル治療(デジタルセラピューティクス:DTx)という新たな分野のスタートアップである米Akili Interactive Labs(以下、Akili)Co-Founder/Chief Creative Officer(CCO)のMatt Omernick氏は2021年12月16日、コンピュータグラフィックスや映像技術などに関するカンファレンス「SIGGRAPH(シーグラフ)」のアジア版「SIGGRAPH Asia 2021」(21年12月14~17日、東京国際フォーラム)に登壇し、このように述べた(図1)。

図1 米AkiliでCo-Founder/Chief Creative Officer(CCO)を務めるMatt Omernick氏
図1 米AkiliでCo-Founder/Chief Creative Officer(CCO)を務めるMatt Omernick氏
(SIGGRAPH Asia 2021での投影映像を日経クロステックが撮影)
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 Akiliは、8~12歳の子ども向けに注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療を目的としたデジタルゲームの開発・提供を担う企業だ。米FDA(食品医薬品局)が20年6月、同社のアプリケーション「EndeavorRx」をデジタル治療として認可したことで、広く知られるようになった(図2)。「世界初のFDA認可のゲームだ」とOmernick氏は強調する。

図2 注意欠陥・多動性障害(ADHD)の注意機能を改善する「EndeavorRx」
図2 注意欠陥・多動性障害(ADHD)の注意機能を改善する「EndeavorRx」
(画像:Akili)
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 Omernick氏の前職は、スター・ウォーズやインディ・ジョーンズなどの作品で知られる米Lucasfilmのゲーム部門LucasArtsだ。そこで培ったノウハウを活用して、Akiliを共同創業した。「ゲームというツールを利用して人々の健康を支援する。身体の健康と同様、認知の健康は重要な問題だ」と同氏は続ける。

 Akiliが開発したEndeavorRxは、プレーヤーである子どもが乗り物を操作し、目的地までの道中でアイテムを入手したり障害物を回避したりしてゴールを目指すアプリケーションだ。子どもの操作状況から注意力などにかかわるデータを収集し、そのデータを分析することで子どもに合ったゲームプログラムを提供する。データ収集と分析、子どもへのフィードバックを続けることで、認知能力の改善を期待できるとする。

 「脳を変えるのは体験だ。ゲームは他のコンテンツと比較しても、さまざまな人に対して非常にインタラクティブな体験を提供できる」。Omernick氏は、デジタルゲームが秘める可能性について繰り返し言及した。現状、同社のデジタル治療は、子ども向けゲームのみだが、開発を続ける中で「認知機能の測定手法として幅広い年齢層に対応できることを確認した。測定だけでなく、認知機能の改善などの影響を及ぼす」(同氏)。しかもゲームで認知能力が向上した後、その状態が一定期間維持できるとする(図3)。

図3 認知能力がゲームで改善
図3 認知能力がゲームで改善
横軸が年齢、縦軸が認知能力(課題解決力・判断力)を示す。ゲームで認知能力が改善し、その効果が1~6か月ほどの一定期間維持できている。(SIGGRAPH Asia 2021での投影映像を日経クロステックが撮影)
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