全2732文字

 2022年の新年早々、驚きのニュースが飛び込んできた。中国・北京賽微電子(Sai MicroElectronics)と合肥高新技術産業開発区管理委員会(合肥ハイテク技術産業開発区管理委員会)は、2万枚/月の300mm MEMS工場を中国・合肥(図1)に建設する協力枠組み協定に調印したというのだ ニュースリリース 。約6万7000m2の敷地は政府側が提供する。総投資額は51億元(約920億円、1元=18円で計算)。資本金40億元(約720億円)のうち、36%を賽微電子が保有し、残りは政府系ファンドや他社が保有するという。ただし、このプロジェクトは、今後、政府機関によって承認される必要があるとしている。

図1 中国・合肥市中心部
図1 中国・合肥市中心部
(出所:田中秀治)
[画像のクリックで拡大表示]

 賽微電子は、昨年(21年)末、子会社のピュアプレイMEMSファウンドリーであるスウェーデンSilex Microsystemsを通じて、ドイツ・Elmos Semiconductorが保有するドルトムントの200mm CMOS工場の事業を総額8500万ユーロで買収すると発表したばかりだ。「驚きのニュース」と書いたのは、それから間がないためである(以下の記事を参照)。

 賽微電子はこの工場を「FAB6」と呼んでいるが、スウェーデンにあるもともとのSilexの工場がFAB1とFAB2、北京に建設中のた工場がFAB3、Elmosの工場がFAB4とFAB5で、それに続く工場ということだと思われる。北京FAB3は20年9月に1万枚/月の製造能力でオープンし、21年6月から中国・通用微科技(GMEMS)のMEMSマイクロホンを量産している。今後、24年または25年までに3万枚/月への拡張が計画されている。

出ては消える300mmウエハー製造の話

 「300mmウエハーでのMEMS製造なんてありえない、200mmでも十分大きいのに」。これが多くのMEMS業界人の「常識」だっただろう。筆者もその一人だ。筆者がMEMSに関わり始めたばかりの約20年前を振り返ると、MEMSにとって200mmウエハーは巨大で、多くのメーカーは150mmまたは100mmウエハーを使っていた。しかし、今では150mmウエハーはコンシューマー向けMEMSにとっては小さ過ぎる。また、圧電材料の成膜装置、エッチング装置など最新のMEMS製造装置は200mm仕様のみである。150mm以下のウエハーでの製造も残っているが、多くはニッチなデバイス、自社向けデバイスなどの製造である。

 200mmウエハーでのMEMS製造が一般的になって久しいが、300mmウエハーでの製造はどうだろうか。筆者の過去の記事では、MEMSの300mm化について何度か触れている。

 最初は17年7月の記事だ(以下の記事を参照)。

 ここでは、台湾・TSMCがCMOS LSIとMEMSの集積化技術を300mmウエハーでデモンストレーションし、国際会議Transducers 2017で発表したことを報告している。この技術は米InvenSense(現在はTDK傘下)の200mm集積化MEMSプロセスに準じたもので、300mmウエハーで製造されるCMOS LSIとMEMSの集積化を可能にするものだ。この記事では、TSMC FellowでVice President(当時)のAlexander Kalnitsky氏の「今回のプロセスは開発段階にあって、事業化の具体的な計画はない」との談話を紹介している。

 次は18年11月だ(以下の記事を参照)。

 ここでは、中国・士蘭微電子(Silan Microsystems)が厦門に建設中の300mm「特色工藝」工場について報告している。当時、筆者が参加した中国での国際会議で、このプロジェクトの関係者らは「特色工藝」にはMEMSセンサーが含まれると説明していた。同社は加速度センサーとマイクロホンの量産を8インチ(200mm)の自社工場(おそらく杭州)で行っており、厦門の300mm工場はパワー半導体向けだと思われるが、実際のところはわからない。なお、百度地図(バイドゥマップ)の衛星写真によると、工場の外観は出来上がっているようであった。

 最後は19年11月だ(以下の記事を参照)。

 ここでは、ドイツRobert Bosch(ボッシュ)がドレスデンに建設していた半導体工場について、いくつかのメディアがMEMSも製造されると報道していたことを受け、Robert Boschに確かめた真相を報告している。同社の答えは「300mmウエハーでMEMSを生産する計画はない」だった。ボッシュは、報道発表資料において、ドレスデンの300mmファブの役割はモビリティとIoT(Internet of Thing)向けのチップ生産であるとし、MEMSについても触れていたため、記者がドレスデンの300mm工場でMEMSが生産されると思うのは無理のないことであった。

300mmウエハーを必要とする巨大センサーも

 毎年、開催している日経xTECHラーニング「スマートフォンや自動車、IoTデバイスを進化させるMEMS技術」では、300mmウエハーを用いた初のMEMSとして、米国ベンチャー企業Butterfly NetworkのCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)を紹介している。このcMUTはハンドヘルド型の医療用超音波撮像デバイスであり、スマートフォンにつないで使われる(図2)。

* セミナーの紹介ページ https://www.nikkeibp.co.jp/seminar/atcl/nxt/ne211026/
図2 Butterfly NetworkのCMUTデバイス「Butterfly iQ」
図2 Butterfly NetworkのCMUTデバイス「Butterfly iQ」
(出所:Butterfly NetworkのPress Kit)
[画像のクリックで拡大表示]

 MEMS撮像素子のダイサイズは626mm2(約3cm×2cm)と巨大である(図3)。小さいと意味ある画像が取得できないからだ。この大きさのダイだと、300mmウエハーで製造してもウエハーあたり70~85個しか取れないと思われる。したがって、300mmウエハーで製造する必然性があるわけだ。なお、Butterfly Networkは、CMUTデバイスは安く販売し、超音波画像をクラウドストレージサービスに集めてデータビジネスを行う戦略を描いている。

図3 MEMS撮像素子(約3cm×2cm)
図3 MEMS撮像素子(約3cm×2cm)
(出所:Butterfly NetworkのPress Kit)
[画像のクリックで拡大表示]