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 全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)は2022年1月18日(米国現地時間)、米国における5G(第5世代移動通信システム)の周波数帯拡張によって、米国便の一部を欠航する可能性があると発表した。米国において大手通信事業者である米Verizon Communications(以下、ベライゾン)と米AT&Tが、新たな5G向けの周波数帯の運用を同年1月19日から開始予定としており、この周波数帯が航空機の電波高度計に干渉する可能性があるからだ。米航空業界は「5Gが安全な運航に壊滅的なリスクをもたらす」と繰り返し指摘しており、これを受けてベライゾンとAT&Tは18日、19日に予定していた新たな周波数帯の運用開始を、空港付近など一部地域で延期することを明らかにした。

全日空(ANA)は米国における5G周波数帯の拡張によって米国便の一部が欠航するおそれがあると発表した
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全日空(ANA)は米国における5G周波数帯の拡張によって米国便の一部が欠航するおそれがあると発表した
(撮影;日経クロステック)

 米航空業界が問題視するのは、Cバンドと呼ばれる3.7G〜4.2GHz帯の5G向け電波だ。米国において同周波数帯はベライゾンとAT&Tが落札し、当初は21年末から運用開始予定だった。だが米航空業界からの懸念を受けて、ベライゾンとAT&TはCバンドの運用開始延期を繰り返し、直近でも22年1月頭に2週間の延期を決めていた。

 その期限が22年1月19日に迫る中、米航空業界は米政府へと書簡を出すなど訴えを強めていた。こうした声の高まりを受けてベライゾンとAT&Tは土壇場で、空港付近など一部地域における新たな5G周波数帯の開始延期を余儀なくされた。

 米航空業界が、5Gの拡張によって運航に影響を与えるとする電波高度計とは、航空機やヘリコプターに搭載される機体の高度を計測する機器である。地表に向かって電波を発射し、反射波が戻ってくるまでの時間を計測することで高度を測定する。電波高度計は、Cバンドに隣接する4.2G〜4.4GHz帯の周波数帯を利用する。

 航空機が高度を注意しなければならない空港へアプローチする経路付近にCバンドの5G基地局があった場合、5G電波の干渉によって、航空機が正しい高度を計測できなくなる恐れがあると米航空業界は指摘する。

 米連邦航空局(FAA)は「航空機の安全性を守るために制限を課す必要があり、フライトスケジュールや運用に影響を及ぼす可能性がある」という声明を公表していた。ANAとJALが米国便の一部を欠航する可能性があると発表したのは、こうした理由が背景にある。

 Cバンドに含まれる3.7G〜4.2GHz帯を活用した5Gサービスは、米国以外にも日本やフランスで始まっている。日本やフランスでは今のところ大きな問題にはなっていない。なぜ米国で大きな問題になっているのか。

米連邦航空局(FAA)が指摘する米国とフランスのCバンドの運用条件の違い
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米連邦航空局(FAA)が指摘する米国とフランスのCバンドの運用条件の違い
米国の5G基地局は大出力が認められているなど、電波高度計へ干渉を与えるリスクが大きいとする(出所:FAA)

 FAAは、「米国の空域は世界で最も複雑であるほか、米国の5Gサービスは他国と条件が異なるから」と指摘する。FAAのWebサイトには、フランスと米国におけるCバンドの5G運用状況の違いが記載されている。米国におけるCバンドの5G基地局は、フランスの場合と比べて2.5倍の大出力を許されているという。さらにアンテナの角度についても、フランスでは下向きに設置する制限があるが米国ではそれがないとなっている。

 もっとも一部の米メディアは、この問題が他国で問題になっていない理由の一つとして、業界団体の力が強い米国ならではの事情に言及している。米航空業界が米通信業界に対し、電波高度計の更新費用の支払いを求める思惑があるのではないかと指摘する。

 日本の状況はどうか。