日野自動車で排出ガスおよび燃費不正が発覚した。日本市場向けのトラックやバスに搭載するディーゼルエンジン(以下、エンジン)である。同社は2022年3月4日夕刻に緊急会見を開催し、同社の小木曽聡社長と下義生会長が謝罪した。同日、同社の株価は約15%も急落した。同社に何が起きたのか。いま知りたい10の疑問を追究した。
Q1:不正の中身は?
Q2:不正なエンジンを搭載した車両は?
Q3:不正が発覚した経緯は?
Q4:悪質性の有無は?
Q5:いつから不正を行っていたのか?
Q6:不正が与える影響は?
Q7:なぜ不正を行ったのか?
Q8:他に不正はないのか?
Q9:出荷の再開はいつか?
Q10:経営陣の責任は?
Q1:不正の中身は?
対象は、[1]中型エンジン「A05C(HC-SCR)」の1機種と、[2]大型エンジン「A09C」および[3]同「E13C」の2機種で、平成28年(2016年)排出ガス規制(ポスト・ポスト新長期規制)対象のエンジン。[1]の中型エンジンは排出ガス性能の不正が、[2][3]の大型エンジンは燃費の不正が見つかった。
具体的には、[1]の中型エンジンは、エンジンの認証試験の1つである排出ガス性能の「劣化耐久試験」において、排出ガスの後処理装置である「第2マフラー」を途中で不正に交換して試験を行った。第2マフラーは、窒素酸化物(NOX)浄化用触媒のこと。エンジンの排出ガスに含まれるNOXを窒素(NO2)と水(H2O)に変えて浄化(無害化)する装置である。未燃焼の炭化水素(HC)や燃料から分解生成したHCを還元剤として使う。
日野自動車の開発設計者は、劣化耐久試験の過程で、排出ガスの浄化性能が劣化し過ぎて、そのままでは規制値に適合しないと認識していた。再試験の結果から、経年変化によって排出ガスの規制値を超過する(満たさない)可能性があると判明した。
[2][3]の大型エンジンは、エンジンの認証試験における燃費測定において、実際よりも良い燃費の値を燃費計に不正に表示させるようにして試験を実施した。測定装置の操作パネルから、燃料流量の校正(キャリブレーション)値を燃費に有利に働く数値に不正に操作した。技術的な検証から、実際の燃費が諸元値(カタログ値)を満たしていないことも判明している。
これらの3機種に加えて、[4]小型エンジン 「N04C(尿素SCR)」も、技術的な検証から実際の燃費が諸元値に達していないことが判明している。ただし、この小型エンジンについては現在調査中で、不正の有無について現時点では分かっていない。
Q2:不正なエンジンを搭載した車両は?
中型エンジンを搭載したのは中型トラック「日野レンジャー」。大型エンジンを載せたのは大型トラック「日野プロフィア」と、大型観光バス「日野セレガ」および、いすゞ自動車の大型観光バス「ガーラ」だ。
現時点では不正の有無は不明であるものの、燃費が諸元値を満たしてない小型エンジンを搭載したのは小型バス「日野リエッセⅡ」とトヨタ自動車の小型バス「コースター」である。
Q3:不正が発覚した経緯は?
社内の調査で判明した。社内外からの告発ではない。2018年11月、日野自動車のある社員が、米国の法規に照らし合わせて認証のステップを確認したところ、おかしな点があることに気づいた。この報告を受けた同社は、下社長(当時)をリーダーとした総点検を開始。法規の理解が必要となるため、米国では弁護士を起用して本格的な調査に着手した。この総点検において、念のために法規と認証のステップが異なる日本でも調査を進めたところ、不正が発覚した。
なお、米国での調査は継続中で、見つかった問題は随時、当局に報告している。米国司法省からの調査も開始されている。
Q4:悪質性の有無は?
率直に言って、かなりの悪質性が感じられる。試験中に不正を行っておきながら排出ガスの規制を満たしたと偽ったことについては、2015年に発覚した「ディーゼルゲート」事件、すなわちドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)が起こしたディーゼルエンジン車(乗用車)の排出ガス不正を彷彿(ほうふつ)とさせる。VWは、米環境保護局(EPA)の排出規制を不正に回避するソフトウエア「ディフィートデバイス(無効化装置)」をエンジン制御システムに仕込んでいた。
一方、燃費不正については、2016年4月に三菱自動車で、同年5月にスズキで発覚した燃費不正と同じ構図だ。三菱自動車とスズキは走行抵抗値の操作、日野自動車は燃料流量の校正値の操作と、3社が採った手法は異なるものの、実力以上の低燃費を装った点では変わらない。
問題は、エンジンに関するこれらの不正が、日本だけではなく世界中を騒がせる大きなニュースになったにもかかわらず、日野自動車が不正を改めるどころか、隠蔽を続けてきたことにある。三菱自動車による燃費不正が明らかになった直後、国土交通省が各自動車メーカーに指示した調査に対し、日野自動車は「不正を含めた問題はない」(同社)と同省に報告した。同社が不正に手を染めたのは、そのおよそ半年後だ。