三菱ふそうトラック・バスは2022年3月15日、喜連川研究所(栃木県さくら市)の電気自動車(EV)の試験設備を報道関係者に公開した。同社は39年までに国内の全新型車両をカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)にする方針で、EV向けの試験設備の拡充も進めている。
21年9月、同研究所内に「EV試験棟」を整備した。従来はエンジン車と同じ拠点で試験していたが、EV専用に独立した建物を用意した。充電設備や充電状態を調べるための分析器などを備えている。EV内の高電圧機器を取り扱う際などにこの建物を利用するという。現在は主に、車載バッテリーから建物へ給電する「V2H(Vehicle to Home)」や、家電機器などへ給電する「V2L(Vehicle to Load)」を検証している。
22年3月には、既存の試験設備棟に「バッテリー分解室」を新たに設けた。試験走行後のEV用バッテリーパックをここに持ち込んで技術者が分解。内部に水や粉じんが混入していないかどうか、気密性をチェックする。セル内部までは確認しない。これまでは外部に委託していたこうした業務を、開発の効率化のために自社拠点に取り込んだ。
バッテリーには可燃性物質が多く含まれるため、分解作業時の安全性を保つべく設備に複数の工夫を施した。温度センサーで発熱の有無を確認するほか、万が一バッテリーが発火した際には、分解台の天板を下ろして内部の水槽にバッテリーを水没させる。発生したガスは台の上の換気扇で吸引する。
ディーゼル用を改造したEV用試験設備
バッテリー分解室と同じ建物内には、モーターやインバーターなど高電圧を利用する機器の性能を確認する「コンポーネントテストベンチ」も設けている。約10年前にディーゼル車のエンジン用の試験設備を改造して造った。同社が17年から販売している小型EVトラック「eCanter(eキャンター)」もこの設備で検査した。
機器の性能はシミュレーションシステムを使って検査する。シミュレーションをするパソコン側では車両のモデルや道路のデータを設定できる。試験室内で実際に動かすモーターなどのデータを使って仮想的にクルマを走らせ、所定の性能が出ているかどうかを確認する。
コンポーネントテストベンチに隣接する部屋にある「システムテストベンチ」では、あらゆる故障を実車に近い形で試験する。16年に設置し、19年ごろに本格稼働を始めた。特に重点的に試験しているのは、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)だ。例えば、機能の追加などでECUをアップデートした際に不具合が起きないかどうかを確認する。
実際にクルマに搭載するときのように、多数のECUを組み合わせた状態で試験する点が特徴。「連動するECUもあるため、各ECUを単体で調べるだけではなく、組み合わせた場合に問題がないかどうかを確認する必要がある」と同社開発本部メカトロニクス開発部池田厚氏は話す。
システムテストベンチの試験室の大部分を占めるのは、車両1台分の高電圧バッテリーを収納した鋼製の箱だ。万が一、リチウムイオン2次電池が発火した場合のことを考えて、厳重に管理している。バッテリーは温度センサーなどで監視しており、異常があれば隣の部屋に設置した水槽から毎分300Lの水が流れ込み、電池を冷却するという。