アダマンド並木精密宝石(東京・足立)は2022年4月19日、高純度かつ大型のダイヤモンドウエハーを開発したと発表した(図1)。不純物である窒素(N)濃度が0.9ppb(parts-per-billion、10億分率)と極めて低く、直径も2インチ(約51mm)とダイヤモンドウエハーとしては世界最大クラスである。
このウエハーは、量子ビットを保持する量子メモリーや、超高感度なセンシングを可能にする量子センサーの素子として応用できるという。
現在、これら量子デバイスの素子として注目が集まっているのが「ダイヤモンドNVセンター」だ(図2)。ダイヤモンドNVセンターは、ダイヤモンドの結晶中の炭素(C)原子の一部を、N原子に置き換えた構造である。N原子の原子価(他の原子と結合する手の数)はC原子のそれより1小さいため、N原子とペアで1つの空孔(V)ができる。
この空孔部分に電子が集まる。集まった電子は、磁石のように振る舞うスピンと呼ばれる量子状態を維持する。通常、こうしたスピン状態は冷却しないと維持が難しい。しかしダイヤモンドNVセンター内の電子スピンは、頑丈なダイヤモンド構造に守られているため、常温でこの状態を維持できる。こうした理由からダイヤモンドNVセンターは量子素子として期待されている(図3)。
ただ、ダイヤモンドNVセンターが素子として高い性能を発揮するためには、材料となるウエハーに高い純度が要求される。具体的には、N濃度を3ppb以下にしなくてはならない。「Nは必要だが、必要以上にあると周囲に余計なスピンが生まれてノイズになる」(アダマンド並木精密宝石 ダイヤモンド基板開発統括本部 企画戦略部 部長の小山浩司氏)ためだ。高純度のダイヤモンドウエハーはこれまで4mm角と非常に小さいものしか世に存在せず、「このサイズでは研究開発はともかく、デバイスの量産工程で使うことは困難」(同氏)だった。
一方同社は、21年9月に2インチの大型ダイヤモンドウエハーを発表した。このウエハーはN濃度が0.7ppm(parts-per-million、100万分率)と高くダイヤモンドNVセンターには不向きだが、製造工程の工夫でN濃度を下げられる余地はあった。