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 ジャパンディスプレイ(JDI)は2022年6月22日、ディスプレー関連の技術説明会を開催し、次世代有機EL(OLED)やセンサー技術などを紹介した(図1)。同5月に発表した成長戦略の基盤となる技術の実用化時期や製品の活用事例を示しつつ、将来に向けた経営戦略を説明。開発した新技術を他のディスプレーメーカーへライセンス販売して自社工場への設備投資を抑制するなど、事業拡大と収益性の改善を両立させる考えを示した。

図1 JDIは成長戦略に向けた複数の次世代ディスプレー技術を展示した
図1 JDIは成長戦略に向けた複数の次世代ディスプレー技術を展示した
(写真:日経クロステック)
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JDIが5月に発表した成長戦略(PDF) 成長戦略「METAGROWTH 2026」策定のお知らせ

 説明会で強調したのが、有機ELの新技術である「eLEAP」や、ディスプレーの基礎となる回路基板の新技術「HMO(High Mobility Oxide:高移動度酸化物半導体)」など、JDIが成長の原動力と位置付ける次世代ディスプレー技術だった。会長CEO(最高経営責任者)のスコット・キャロン氏は「過去は特定の顧客向けのビジネスが多かったが、今後はオープン戦略をとる」と語り、他社との協業や技術のライセンス販売を強化すると戦略を説明した。

 5月に発表したeLEAPは、世界初となるマスクレス蒸着とフォトリソグラフィーを組み合わせた方式で画素を形成する技術。高輝度・自由な形状設計、長寿命を実現できる。RGB素子の形成工程で、これまで使っていたファインメタルマスク(FMM)ではなく、TFT(薄膜トランジスタ)の形成工程に使うフォトリソグラフィーを応用してRGB素子を形成するのが特徴だ(図2)。2022年にもサンプル出荷を始め、2024年前半の量産化を見込む。

図2 高輝度・高寿命などの特徴を持つ次世代有機EL技術「eLEAP」
図2 高輝度・高寿命などの特徴を持つ次世代有機EL技術「eLEAP」
(写真:日経クロステック)
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 RGBの発光層を1層ずつ基板上に蒸着したあと、素子として残したい箇所だけに光を当てて現像することで、高い位置精度で大面積の素子を形成できる。FMMを使う場合と比較して、素子の面積(開口率)と輝度を2倍に高められる。素子の面積が2倍に増えると同じ輝度に発光させる電流密度を半分に減らせるため、素子の長寿命化に役立つ。FMMを使わないことで不純物の混入も減らせるため、製品寿命は3倍に延ばせる。

 従来方式では対応が難しかった「第8世代(G8)」や「第10.5世代(G10.5)」と呼ぶ大型基板にも対応でき、大画面のディスプレー製品への応用が期待される。RGB素子の形成に既存のTFT工程を応用できるので新規投資を抑えられ、広い採用が期待できる。特に今後、有機ELの搭載が期待されるノートパソコンやモニター、高輝度・長寿命が求められる車載ディスプレーなどが主なターゲットだ。

バックプレーンの改良技術「HMO」

 HMO技術は、ディスプレーの基礎となる微細な半導体素子(TFT)を実装した回路基板(バックプレーン)に使う技術で、有機ELや液晶の低消費電力化や大面積化を実現できる。これまで酸化物半導体として使っていたアモルファス膜(TAOS)やCAAC(C-Axis Aligned Crystal)を、多結晶膜である「Poly-OS」に置き換えることで、電気的な特性(電界効果移動度)を改善した。ディスプレーの構造は変わらないため、幅広いディスプレーに応用できる(図3)。

図3 HMO技術では結晶性の高いPoly-OSを使い、電気特性を改善した
図3 HMO技術では結晶性の高いPoly-OSを使い、電気特性を改善した
(写真:日経クロステック)
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 Poly-OSに使う多結晶酸化物半導体材料は出光興産が開発し、JDIのバックプレーン技術と組み合わせた。オフリーク電流は従来と同様に低いまま、高い結晶性から低温ポリシリコン(LTPS)技術と同水準の高い移動度を持つ。LTPS技術ではガラス基板サイズの大型化はG6までが限界だが、HMO技術ではG8以降の大型基板にも対応した。有機ELディスプレーやVR(仮想現実)向けのヘッドセットなどへ応用が期待される。2023~2024年にかけての量産を想定する。

他社との協業でビジネス拡大

 eLEAPとHMOは大面積の基板に応用できるため、G8以上の大型基板の生産ラインを持つメーカーへのライセンス販売や、量産に向けた協業を検討している。JDIの主力工場である茂原工場(千葉県茂原市)はG6までにしか対応しておらず、G8以降は他社とアライアンス契約を結んでいく戦略だ。キャロン氏は「JDIは世界一の技術を多く持っており顧客からの評価も高いのに、財務に反映できていなかった」とし、経営資源が拡散して経営が非効率になっていたとする(図4)。

図4 JDI会長CEOのスコット・キャロン氏
図4 JDI会長CEOのスコット・キャロン氏
(写真:日経クロステック)
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 キャロン氏は「JDIではG6までの量産技術を確立し、性能を示して以降は顧客に展開する。(今後、自前で)G8以降の設備投資はしない」と説明した。ディスプレー産業は生産のための大型投資が必要で、需要の変動で値崩れしやすく、ともすれば過剰資産に陥るリスクが高い。大型基板向けでは、既に設備を持つ中国・韓国メーカーなどに技術をライセンス提供することで投資を抑えつつ、収益化を図る考えだ。ライセンスビジネスの規模は将来的に数百億円規模まで拡大する計画だという。