東レは2022年7月15日、地球環境問題に関する研究開発や経営方針の説明会を開いた。研究や技術開発投資の50%を「グリーンイノベーション(GR)」事業に振り向け、脱炭素化を進める。「材料の革新なくして、地球環境問題に対する本質的なソリューションは提供できない」(同社 副社長執行役員 阿部晃一氏)として、先端材料を長期研究開発する基本方針を強調した(図1)。
東レがGR事業で研究開発を強化する技術は、主に(1)炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、(2)炭素繊維またはポリマー系の膜技術である。
同社のR&D体制の特色は、「基礎研究や先端開発は日本でしか行わない」(阿部氏)こと。これには東レ特有の考え方がある。「先が見えない、いつ出口にたどり着くのかわからない基礎研究を、超継続的に黙々と取り組めるのが日本人の研究者である」(阿部氏)とし、「こうした日本人の気質を最大限生かせるような戦略を採る」(阿部氏)ためだ。
刺激剤としてユニークな制度もある。勤務時間の2割程度を上司に報告せず自由に研究できる「アングラ研究」(阿部氏)である。
同社は伝統的にアングラ研究を推奨してきている。その理由は、炭素繊維で成功したことが大きい。1961年、大阪工業試験所(現・産業技術総合研究所 関西センター)の進藤昭男氏が、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維を基本発明した。東レはそれ以前からアングラ研究として炭素繊維を手掛けており、進藤氏の発明を受けて本格研究をスタート。特許の実施許諾を得て事業化し、今では2200億円規模(2021年度の炭素繊維複合材料の売上収益)に成長した。「進藤先生の発明の素晴らしさを見抜けたのは、アングラ研究を実施してきたのが理由の1つ」(阿部氏)
研究促進のために人事制度も見直した。「執行役員と同待遇の『エグゼクティブフェロー』や、研究者の鑑と呼ぶべき『リサーチフェロー』という職位を設けた。研究者が専門性を高めることにやりがいを感じるようにしている」(阿部氏)