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左上はソニーの交換レンズブランド「Gマスター」製品、右下はレンズの構成例(出所:ソニー)
左上はソニーの交換レンズブランド「Gマスター」製品、右下はレンズの構成例(出所:ソニー)
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 ソニーグループ(ソニーG)が独自の生産技術を活用し、製品力強化やコスト削減を進めている。エレクトロニクス事業会社のソニーでは、自社開発の測定器を使うことで、カメラ用レンズの高品質生産を実現した。要素技術と生産技術の両輪で製品力に磨きをかけている。

ソニーのものづくり戦略の概要(出所:日経クロステック)
ソニーのものづくり戦略の概要(出所:日経クロステック)
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自動化で「匠の技」を超えた

 ソニーのデジタル一眼カメラ「α(アルファ)」用の交換レンズブランド「Gマスター」は、同社が誇る主力製品だ。高い解像性能を持ち、2016年の発売以降、カメラ記者クラブ主催の「カメラグランプリ」で複数回レンズ賞を獲得している。後発のソニーが高い競争力を持つ背景には、高い微細加工技術に加えて、レンズの光学性能を高める独自の光学測定技術がある。そこから得られるデータを活用して各レンズの位置や距離、角度を微調整することで光学収差(焦点のばらつきなど)を抑えたことが大きく貢献した。

 交換レンズは複数枚のレンズを組み合わせて造るので品質の維持が難しく、わずかなレンズ間の距離や角度のズレから、光源の像がぼやける「球面収差」や、ゆがんで見える「歪曲(わいきょく)収差」などの光学収差が生じる。従って、製品ごとに誤差を測定して調整しなければならない。ソニーはすべての工場に専用の測定器を導入し、各種の数値からターゲットを算出し、それに合わせて作業員が容易にレンズを調整できるようにした。

光学収差の1つである「球面収差」の仕組み(出所:日経クロステック)
光学収差の1つである「球面収差」の仕組み(出所:日経クロステック)
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 測定器の詳細は非公開だが簡単に開発できるものではなく、「個々の部品から解析ソフトウエアまで自社で手掛けた」と担当者は振り返る。交換レンズは数μm(マイクロメートル)ほどの位置ズレでも性能が低下するといわれる精密製品だ。以前はレンズの評価にも限界があり、最終的には熟練者が「匠(たくみ)の技」で微調整していた。だが、測定器を独自開発したことで「これまで到達できなかった高品質にたどり着けた」(ソニー)。

 熟練者に依存しない生産工程は、生産拠点の制約をなくし、誰でも高い品質のレンズを安価に生産できるという利点がある。これまでは専門の熟練者が現場で勘や経験則に基づいて調整していたので、光学性能が人に依存するという課題があった。新型コロナウイルス禍が拡大した2020年以降は、生産現場のBCP(事業継続計画)という観点からも重要な一手となっている。

ロボット技術を自前開発

 幅広い製品を手掛けるソニーにおいて、生産技術の強化は収益性改善や製品力強化に欠かせない要素だ。特に高い競争力のある製品を世の中に提供し続けていくには、「自前でモノを造り込むことが重要になる」(ソニー)。ある程度の数量を生産する製品では、生産工程の共通化や自動化、調達や生産までを想定した設計が必要になる。生産技術高度化の代表例といえるのが、ソニーのテレビブランド「BRAVIA(ブラビア)」だ。

 テレビ製品や電子機器の国内生産拠点である稲沢サイト(愛知県稲沢市)には、BRAVIAの完全自動化ラインを2022年3月に構築し、作業者がいなくても製品を生産できる体制を整えた。25の工程に沿って数十台の大小さまざまなロボットがせわしなく動き回り、テレビを手際よく組み立てていく。これら生産ロボットの作業部品(ハンド)や制御ソフト、さらにはシミュレーション技術までソニーが内製した。同社生産センター長の内田順氏は「テレビの生産を完全に自動化した事例は私が知る限りではないだろう」と語る。

愛知県稲沢市のテレビ生産拠点の完全自動化ライン(写真:ソニー)
愛知県稲沢市のテレビ生産拠点の完全自動化ライン(写真:ソニー)
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 自動化により生産性は22%、ロボットの動作スピードは37%改善できた。ロボットや設備などの各所に設置したカメラで稼働状況を確認するなど、それぞれのロボットを並行して効率的に稼働させる仕掛けを整えた。ケーブルやコネクターなど柔軟性のある部品を接続するというように、自動化が難しい作業も人間顔負けの器用さでこなしていく。「さまざまな技術をいかに小さなロボットハンドに詰め込むかが大変だった」と担当者は振り返る。

ケーブル接続作業の様子。メイン基板(左)と電源基盤(右)を接続している(写真:ソニー)
ケーブル接続作業の様子。メイン基板(左)と電源基盤(右)を接続している(写真:ソニー)
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