構造解析・流体解析などのシミュレーションを手掛ける米Ansysの日本法人アンシス・ジャパン(東京・新宿)は、水素をエネルギー源として活用する際の製造、貯蔵・輸送、利用にわたるシミュレーション技術の概要を明らかにした(図1)。水素関連の技術開発に取り組む顧客から個別に問い合わせを受けて対応し、さまざまな局面での解析技術を蓄積できたと説明する。シミュレーション製品やサービスとしてメニュー化しているわけではなく「もっと体系的に説明できるようにするのが課題だが、問い合わせに応じて説明している状況」(アンシス・ジャパン)という(表)。
水素は爆発の危険もあり、高温環境下での反応実験などは簡単ではない。さらに、実験設備と実プラントでは規模が異なり、実験設備の稼働条件などをそのまま実プラントには適用できない。そのため、コンピューターでの事前シミュレーションの実施が必須になる。アンシス・ジャパンによれば、近年水素サプライチェーンに関わる案件に対してシミュレーションの支援を提供する機会が増えたという。
水素エネルギーの活用は、水素発生源(原料)の取得、水素の製造、輸送・貯蔵、利用といった要素から成る一連のサプライチェーンの実現で可能になるものであり、技術的な課題は各工程で1つひとつ解決する必要がある。シミュレーション技術もさまざまな工程でニーズが生じている。
区分 | シミュレーションの対象 | シミュレーションの目的/テーマ | 特徴的なシミュレーションの方法/モデル |
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製造 | バイオマス熱分解 | 乾留ガスの生成量増加 | 乱流・混相流モデル、化学反応モデル、DEM(Distinct Element Method)粉体モデル |
乾留ガスからの固体除去効率化 | |||
バイオマス・メタン熱分解 | 熱分解反応の高速化 | ||
溶融金属によるメタン分解 | 液膜(溶融金属膜)モデリング(メッシュより薄い液膜を扱う)、乱流・混相流モデル、化学反応モデル、DEM粉体モデル | ||
石炭・褐炭熱分解 | 乾留ガスの生成量増加 | 乱流・混相流モデル、化学反応モデル、DEM粉体モデル | |
固体高分子(PEM)形水電解 | スタックの出力密度向上 | PEM電解槽モデリング、多孔質電極モデリング | |
固体酸化物形水電解 | 高効率な固体酸化物電解セル(SOEC)の設計 | SOECモデリング、多孔質電極モデリング | |
水蒸気改質(SMR) | 水蒸気改質の効率向上 | 1D-3D連成シミュレーション | |
熱マネジメントの精度向上 | 縮退モデルによるデジタルツイン | ||
貯蔵・輸送 | 高圧水素タンク | 耐久性を確保した軽量化 | 炭素繊維・金属ライナー複合モデル、マルチスケール亀裂伝播解析 |
脆化を考慮した材料選択 | 材料データベース | ||
水素漏出時の着火性(危険性)確認 | LES(Large Eddy Simulation)乱流モデルと化学反応モデルの併用、ワークフロー自動化による漏出穴サイズのパラメータースタディ― | ||
液体水素昇圧ポンプ | キャビテーション予測 | 回転翼モデリング、構造解析、流体解析、材料選択などのワークフロー自動化 | |
低温での水素脆化の考慮 | |||
水素圧縮ポンプ | 水素圧縮ポンプの設計 | ||
利用 | 水素の燃焼現象 | 窒素酸化物の予測、燃焼温度の予測 | 有限速度(Finite Rate)反応モデル、SBES(Stress-Blended Eddy Simulation)乱流モデル、FGM(Flamelet Generated Manifolds)燃焼(火炎面)モデル |
リーン燃焼 | リーンブローアウト(燃焼限界)の予測 | FR反応モデル、FGM燃焼モデル、各種乱流モデル | |
一酸化炭素、窒素酸化物、火炎速度の予測 | |||
ガスタービン | フラッシュバック現象の確認 | Poly-Hexcoreメッシュ(六面体ベースで大きさ可変)、SBES乱流モデル、FGM燃焼モデル | |
既存燃料との併用可能性確認・混焼時の確認 | |||
燃料電池 | 高効率な燃料電池の設計 | 不連続メッシュによる複雑な流路のモデリング、1Dシミュレーションによるデジタルツイン |