小型モジュール炉(Small Modular Reactor:SMR)は、モジュール化の発想を取り入れた小型原子炉の総称である。出力が小さく、簡素化した構造で建設費用を抑えられる他、安全性も高まるとの期待がある。国によってSMRの定義はさまざまだが、国際原子力機関(IAEA)によると、電気出力300MW以下の原子炉を指す。世界では約70種類以上ものSMRが開発されており、軽水炉型はその中で最も実用化が近い。
国内では2011年の福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、従来の大型軽水炉(電気出力1GW程度)の安全性を見直す動きが広がった。しかし、安定電源である上に、稼働中に二酸化炭素(CO2)をほぼ排出しない原子力発電は、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて不可欠な脱炭素電源とされる。そうした中で、新しい選択肢として浮上したのがSMRだ。加えて、ロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギー調達リスクへの懸念から、原子力発電への期待はますます高まっている。
西側諸国の中で最も早くSMRを実用化するとみられるのがカナダだ。6年後の2028年に、同国のオンタリオ州営電力会社(Ontario Power Generation)が運転開始を予定する。米GE Hitachi Nuclear Energyと日本の日立GEニュークリア・エナジー(茨城県日立市)が共同開発するSMR「BWRX-300」を選定した。
BWRX-300は、炉心の冷却に水の自然循環力を用いる。大型軽水炉の炉心冷却に使うようなポンプや非常用ディーゼル発電機が要らず、受動的に安全を確保する仕組みによって、事故のリスクを低減するのが特徴だ。その一方で、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)の構造や部品を流用でき、他の方式よりも実用化で先んじる。
安全性に加えて、工場で製造した部品(モジュール)を現地で組み立てる方式のため、建設費や工期を抑えられるとの期待もある。敷地面積も小さく、主要建屋がサッカーコートに収まるほどだ。1基当たりの建設費用は約1000億円。単純な比較は難しいものの、日本政府が公表している大型軽水炉の同約4800億円との試算に比べるとかなり低い。
期待が先行するSMR。ただし、現在主流の大型軽水炉を置き換えるものではないとの見方が強い。今のところSMRは稼働実績に乏しいのに加え、技術面だけでなく経済性の面でも不透明な要素が残るからだ。というのも、スケールメリットを発揮できる大型軽水炉と比べて、出力の小さなSMRは発電単価で不利となる。従って、原子力発電所では今後も大型軽水炉が主流とみられている。