全1689文字
PR

 東芝は、機器の稼働音を解析して劣化の兆候を高精度に捉える音響劣化推定AI(人工知能)「VAE-DE(Variational AutoEncoder based Deterioration Estimation)」を開発した。このAIを用いると、機器の稼働音に周囲の騒音や雑音などの音響ノイズや、回路の電気的ノイズが混入した場合でも、誤検知することなく早期に機器の劣化の兆候を捉えることができるという。

 実際に電力設備で数年間使用した冷却ファンの稼働音と電力設備の設置場所で収集したノイズから作成したシミュレーションデータ用いてVAE-DEの効果を検証したところ、稼働音から機器の劣化状態を推定した値である「劣化推定値」と実際の機器の劣化状況を示す「劣化傾向」の相関について、相関係数が従来技術の0.144から0.905と大きく向上した。

 これによって、従来難しかった、ノイズによる誤検知を抑制した高精度な劣化推定が可能なことを確認したとしている。

正常音と劣化傾向音を分離

 近年、人手による定期点検での機器保全に代わって、AIを用いた機器の状態監視によって適切なタイミングで保全を行う「状態基準保全(Condition Based Maintenance:CBM)」の実現に向けた取り組みが進んでいる。CBMでは、あらかじめ定めたある基準に達したらメンテナンスをすることで、稼働状況に応じた定期的なメンテナンスに比べて省力化や低コスト化が可能になる。

 CBMの実現においては、機器の状態をどのように推測するかが重要になる。さまざまな手法があるが、東芝が着目したのは音だ。連続動作や繰り返し動作の多い機器では、機器の異常や劣化が稼働音に表れるためだ。音響センサーは他のセンサーに比べて価格が安いほか、劣化検知のタイミングが早い、非接触なので設置に対する制約が少ないというメリットもある。

 稼働音による機器の状態監視では、劣化音は微弱で徐々に変化するため、音響信号の変動から劣化の度合いを推定するAIが必要になる。例えば、機器が稼働する際の正常音をニューラルネットワークで学習することで劣化を推定する「VAE(Variational AutoEncoder)」という手法が既に開発されている。

 通常、監視対象機器は工場や機械室の中に設置されているため、音響センサーにはノイズや外部音が混入しやすい。VAEではディープラーニング(深層学習)を用いて正常音を数多く学習し、AIが学習した空間内で正常音の特徴が中心に集まるように設計する(図1)。このため、正常音にノイズが混ざった場合でも誤検知を起こすことが少ない。一方で、微弱な劣化傾向音も正常音と判断して見逃してしまう弱点があった。

図1 VAEをベースに新手法を開発
図1 VAEをベースに新手法を開発
VAEは正常音の特徴を学習し、分布を推定することでノイズの影響を低減できる。東芝が開発したVAE-DEでは、正常音と劣化傾向音を分離できるように学習する(出所:東芝)
[画像のクリックで拡大表示]