窒化物半導体の国際ワークショップ「IWN 2022」(2022年10月9日~同14日、ドイツ・ベルリン)における基調講演(プレナリーセッション)で、Infineon Technologies AustriaのHerbert Pairitsch氏が「縦型の窒化ガリウム(GaN)パワーデバイスに産業界が強く関与するのは時期尚早」という見解を示した。同氏は欧州のGaN共同研究プロジェクト「UltimateGaN」のコーディネーターを務めるなど、GaNデバイスの開発に関して強い発言力を持つとみられる。研究者の間で波紋が広がっている。
同氏が縦型GaNを後ろ向きに捉える理由は2つある。1つめは、他の化合物半導体の炭化ケイ素(SiC)や横型GaNよりも開発スピードが遅いこと。「縦型GaNデバイスの成長曲線は当初の想定よりも緩やかだ」と、UltimateGaNでの経験などを振り返りつつ語る。理由の2つめは、そもそもの材料ポテンシャルの話で、「絶縁破壊電界(耐圧)が既存のSiCよりもわずかに高い程度しか約束されていない」(同氏)と評価する。
こうした事実から、同氏は縦型GaNの普及について懐疑的なようだ。日経クロステックの追加取材に対しては「(技術が)十分に成熟するまで産業界は縦型GaNを様子見していた方がいいと思う」(同氏)と答えた。
複数の課題が残るとはいえ、縦型GaNはSiCの次に登場するとみられている。それだけに、パワー半導体世界最大手かつGaN開発をリードしているInfineonのこうした見解は、業界で驚きをもって迎えられた。IWN 2022に参加した、日本で窒化物半導体を研究する国立大学の教授は「衝撃的だった」と振り返る。