「におい」で個人を特定――。パナソニック インダストリーは2022年11月14日、開発した人工嗅覚システムの記者向け説明会を実施した。吐く息の成分がヒトによって異なるという性質を利用し、特定の信号パターンを検出して個人認証や人物特定に役立てる。「実用化までは数年かかる」(同社)と語った(図1、図2)。
同システムは、パナソニック インダストリーや東京大学、九州大学、名古屋大学の研究チームが研究開発し、2022年5月に実証に成功したもの。呼気センシングで得られたデータをAI(人工知能)による機械学習を通して分析し、個人特有の呼気パターンを検出する。「20人を対象とした実験では、97%以上の高精度で個人認証できた」(同社)という。
従来の個人認証では、指紋や顔などを認識する手法が使われる。「呼気は指紋などと違い、外傷による変化や偽造がされにくいのが特徴。これまではにおいの種類が多く、濃度が薄いことから実用化されてこなかったが、独自技術で障害を乗り越えられた」と同社 技術本部 センシングソリューション開発センターの中尾厚夫氏は説明する。
人工嗅覚システムに組み込まれたセンサーは、それぞれ異なるにおい分子に対応した16種類の高分子材料と、導電性カーボンナノ粒子で構成する注)。高分子材料によってそれぞれの標的分子との結合しやすさ(親和性)が異なる性質を生かした(図3)。
注)外形寸法は6mm角程度。
におい分子が吸着するとセンサー材料が膨張し、導電性カーボンナノ粒子間の距離が広がる。電気抵抗が増加するため、標的分子を検出できる。
呼気を利用した個人認証の過程はこうだ。まず、ファンがにおいを吸収。センサーが16種類の応答パターンを認識し、電気信号に変換。「どの分子の応答が強かったか」といった、におい分子の強弱パターンを構成する。このパターンをAI学習することで、個人のにおいを特定できる(図4、図5)。