スマートフォンは高機能だが画面が小さい。だからといってスマホとは別にタブレット端末を持ち歩くのはかさばる――。そんな課題を解決できるかもしれない携帯型ディスプレーが現れた。画面を無線通信で転送することで、あたかもタブレット端末やパソコンのようにスマホを利用できる。タッチパネル操作も可能だ。シェアオフィスに同製品を設置すれば、利用者はスマホを持ち込むだけで大画面で仕事ができる。持ち歩けば電車などで大画面で動画を見たり、電子書籍を読んだりすることもできる。シャープ出身者などで構成する企業が基礎技術を提供し、リコーが2022年11月30日に発売する(図1)。
リコーのスマホ用サブディスプレー「RICOH Portable Monitor 150BW」は、無線かつ双方向に接続できることが特徴だ。15.6インチと大型ながら700g程度で持ち運びやすい。現状で5台までのスマホと画面ミラーリング連携できる(動画1、2)。
接続はアクセスポイント(AP)経由に加え、無線LANルーターが不要なWi-Fi Directも使える。ディスプレー側でタッチ操作するとスマホ側も連動するタッチバック技術に対応注1)。現行の「Android」端末で標準搭載するWi-Fi Allianceの映像伝送仕様「Miracast(ミラキャスト)」を使って実現した。「スマホの画面を転送できるMiracastに対応したテレビはあるがタッチバックに対応した製品は、おそらく今回の製品が初めて」(team S 取締役 CMO〔Chief Marketing Officer〕の柳明生氏)
注1)なお、同機能は基本的にAndroid搭載端末向けで、米Appleの「iPhone」には現状非対応。
team Sの技術を採用
同製品の基礎技術をリコーに提供したのが、ものづくり系スタートアップのteam S(東京・港)だ。今回のディスプレーは「Linux」で動作する同社の組み込み型ソフトウエア「SSE(Smart Streaming Engine)」が搭載されている。SSEの商用化としては今回が第1弾で、今後は中国の大手電機メーカーなどにもライセンス予定という。
「スマホの代わりの選択肢がタブレットぐらいしかない状況を変えたかった」。team S 代表取締役の高嶋晃氏はこう語る。タブレットと比べると、(1)質量が軽く持ち運びやすい、(2)原価が安い、(3)個人情報が残らない、などの利点が挙げられる。
SSEディスプレーが軽量で原価が安いのは、構成部品が少ないからだ。タッチパネル付きディスプレーやWi-Fiモジュール、Linuxで動作するMPU(Micro Processor Unit)から成る。
さらに、ディスプレーには映像しか表示しないため個人情報が残らない。そのため、同製品はシェア利用に適しており、「家族や友人、他人などにためらいなく、貸すことができる」と柳氏は述べる。
team Sは、SSEを組み込んだディスプレーの教育現場での活用も見込む。具体的には、タブレット端末で学習を進めるような場面だ。タブレット端末を生徒に貸し出すと、過去の履歴や不要なアプリの使用などが行われる可能性がある。生徒ごとのアプリの実行をすべて教師側のパソコンで行い、その個別画面をSSEを組み込んだディスプレー端末に送ることで、生徒と教師が1対1でつながりながら、パソコンの1つの画面で、複数の生徒の状況を集中的に確認するという使い方ができる。