2022年11月11日、経済産業省は先端半導体の研究開発基盤「LSTC(Leading-edge Semiconductor Technology Center)」と量産事業会社「Rapidus(ラピダス)」の設立に関する発表を行った。ラピダスは、2nm世代プロセスでのロジック半導体の製造を目指すとしている。同社には、トヨタ自動車やソニーグループ(ソニーG)、NTTなど8社が出資する。加えて、日本政府が同社に対してまずは700億円の支援を行う。ラピダス設立の裏に何があるのか。日本の先端半導体製造は復活するのか。日経BP総合研究所クリーンテックラボ所長の大石基之、日経エレクトロニクス編集長の中道理、日経Automotive編集長の木村雅秀が語り尽くす。司会は日経クロステック副編集長の堀越功が務めた。
日本のロジック半導体製造の衰退が続いてきました。経済産業省の資料によれば日本には最先端でも40nm世代プロセスのラインしかないといいます。このタイミングで2nm以下世代プロセスの先端ロジック半導体の生産を目指すというのは、飛躍があるように思えるのですが、どんな背景があるのでしょうか?
中道 まず、2nm世代ごろからは新しいプロセス技術が求められるんです。これまでの最先端はFinFETという構造でした。これがGAA(Gate All Around)という新しい構造になります。GAAに関しては、先行各社も新たに技術開発を進めている段階です。潮目が変わるこのときなら、戦えるとみたのではないでしょうか。さらに、日本の半導体が強かった時代の半導体技術者が今、まさに現役を退こうとしています。その人たちがまだ頑張れる最後のチャンスということでしょう。
大石 経済安全保障という観点も大きいとみています。台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県にロジックの工場を作りますが、まずは22nm/28nm世代です。これは最先端の工場ではありません。さらに、日本の自動車や民生機器のメーカーが要望しているのは必ずしも最先端ではありません。ただ、今後を見通したときに、世界最先端のところを日本が捨てていいのかという議論はずっとありました。中道さんからもありましたが、過去の栄光を知る技術者が残っている今の段階でやるということではないでしょうか。
木村 私も今回の件は、経済安全保障、特に台湾有事を想定してというのが大きいとみています。今、台湾にファウンドリーが集中しすぎているので、台湾有事のときに半導体をどう調達するのかというのが現実的な問題として浮上してきます。
今回の発表での注目点として、日米連携があります。米IBMの2nm世代のプロセスを活用するということです。つまり、日米で連携して、台湾以外で先端半導体を作れる拠点、もちろん米国にも作るが、日本にも作ろうということではないでしょうか。これまで政治家は半導体には無関心だったが、台湾有事が目前の脅威となって、本気になってきたと感じています。一方、半導体業界にはずっと日本に最先端の半導体技術を残したいという思いはあった。現在も、メモリーはあるし、CMOSイメージセンサーもあるが、先端のロジック半導体はなかった。これを何とかするということでしょう。
なぜこんな状況になっているかと、先端ロジック半導体は、経営上のリスクが非常に高く、毎年何兆円も投資しないと、成り立たないからです。日本の企業が毎年、何兆円も投資し続けることは難しいので、先端ロジックの部分は台湾企業にお任せすればいいではないかという話になっていました。
自動車産業では、必ずしも先端半導体が必要ではないという意見が大石さんからありました。木村さん、いかがでしょう?
木村 クルマ向けの半導体に関して言うと、最先端でも16nm世代、7nm世代が使われています。いずれ5nm世代や3nm世代、2nm世代の半導体が使われるかもしれないのですが、クルマはスマートフォンやデータセンターと比べると数世代遅れているので、クルマに搭載されるというよりは、クルマが通信する先のエッジサーバーやクラウドサーバーに使われるのではないでしょうか。