日立製作所は、台湾で2021年12月から運行している新型特急電車「EMU3000」のデザイン開発過程において、3Dプリンターの造形品などを利用して初期段階コンセプト決定から最終段階まで顧客側と頻繁に議論を重ねたプロセスを明らかにした。2022年12月5日に同社が開催した「2022年度 研究開発・知財戦略説明会」における展示テーマの1つ(図1)。顧客の鉄道会社だけでなく沿線の有識者や市民とも広く情報を共有したのが特徴だ。デジタル技術の応用面では、デザインを練り上げて変更していくプロセスも含めて3Dデータで完結したのは初めてという。
デザインの検討には顧客である台湾鉄路管理局(TRA)に加えて、TRAの意向で文化とデザインに詳しい現地の有識者チームが参加。これからの台湾がどうあるべきか、どういうデザインが市民にとって必要かを「徹底的に議論して練り上げた」(日立)後に、具体的なデザインに落とし込んだ。
コンセプトの擦り合わせでは、日立とTRA側がそれぞれ、現在と今後の台湾のイメージを表すグラフィックスや造形、風景写真などを持ち寄って議論した。その結果、静かな海と山が調和した風景のような印象のグラフィックが台湾でよく見られるようになってきたという認識の下に、「サイレントフロー」というコンセプトワードを決定。それに従って、シンプルで余分な要素をそぎ落とす方向でデザインした。
デザイン作業を本格的に進める段階では、「あるタイミングからスケッチだけでなく3Dプリンターの造形品も使うようにした」(日立)。最初から3Dプリンターを使うと決めていたわけではないというが「どういう工夫をすればもっとよく議論できるかを検討した」結果という。造形品はプラスチック製で、表面に線などを書き込みながら打ち合わせした(図2)。「コンセプトとスケッチで煮詰めつつ、キーとなる造形はしっかり3Dプリンターで確認した」(日立)