「モーターサイクルも航空も、(鉄道)車両にも一部水素が入ってくる」「水素事業は、2030年には一番大きな事業となり得る」
川崎重工業が2022年12月6日に開催した「グループビジョン2030進捗報告会」で、同社代表取締役社長執行役員の橋本康彦氏は、何度も水素エネルギー事業への期待を強調した。
グループビジョン2030は、同社が2030年に目指す将来像を、今後注力する「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」の3領域と定め、それぞれの領域での方向性を具体的に示したものだ。2020年11月に公表し、これまでに2021年6月と12月の2回、進捗報告会を開催している。今回はその3回目に当たる。
その中で橋本氏は、「3つの注力分野の1つであるエネルギー環境ソリューションの中でも、とりわけ大きな柱として成長している」と水素事業を位置付けた。水素事業の今後の展開について説明した同社常務執行役員 水素戦略本部長で日本水素エネルギー代表取締役社長でもある原田英一氏は、「2030年には4000億円程度の事業規模となっていく」との見通しを述べた。
一般家庭約40万軒分の電力を賄えるサプライチェーン構築へ
液化水素サプライチェーンを実現するに当たって川崎重工は、液化水素輸送船「すいそ ふろんてぃあ」による世界初の国際間輸送を実現した2022年時点を「技術実証を完遂し、商用化に向けた実証に取り組んでいる段階」と位置付ける。
同社は、水素エネルギーのサプライチェーンを運営する、同社100%子会社である日本水素エネルギーを2021年6月に設立している。今後、液化水素の輸送船や貯蔵基地、液化機や水素タンクなどの設備を発注し、これらの機器・設備を使って発電所や水素ステーションなど水素需要家へ水素エネルギーを供給する。
原田氏は、「(「すいそ ふろんてぃあ」が)現時点では世界で唯一にして最大の輸送規模だが、日常的に水素を利用するにはまだまだ足りない」との見解を示し、「大量かつ安定した水素供給の実現を目指し、液化水素運搬船2隻と4基の大型液化水素タンクで、約40万軒の一般家庭の消費電力に相当する電力を賄える商用サプライチェーンを構築する」との目標を掲げた。
追い風として期待しているのが国の支援だ。2021年には総額2兆円のグリーンイノベーション基金を新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に造成した。この他、発行が検討されている20兆円規模の「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」(仮称)を財源とした、新たな支援制度の実現が見込まれている。
さらに、水素・アンモニアの商用サプライチェーンを支援するため、2030年ごろまでに供給開始を予定している事業者(ファーストムーバー)を後押しするため、LNG(液化天然ガス)など既存燃料との価格差や設備費を政府が補填する水素エネルギー導入促進制度の議論が進んでいる点も指摘。これらの支援によって、「2030年ごろに水素エネルギーを導入する初期段階から、ユーザーは既存燃料と同等価格で水素を利用できるようになる」との見通しを示した。
この他、輸入水素で水素発電を行い、その電力を活用した「ゼロエミッション工場」の実現を目指す。2022年12月時点で100MWクラスの水素発電所の建設を検討中で、2030年の運転開始を目標としている。