NTTドコモとスカパーJSATは2023年1月24日、上空約14kmの成層圏下層からミリ波帯である38GHz帯を使って地上の受信機に電波を送信することに成功したと発表した。携帯電話基地局として動作する高高度の無人航空機(HAPS:High Altitude Platform Station)活用を想定した実証の一環であり、ミリ波を採用することで上空からの高速通信サービス提供の可能性を確認したとする。今後さらに実証を重ねて実用化につなげる考えだ。
HAPSとは、成層圏である地上約20km上空に携帯電話の基地局機能を載せた無人航空機を飛ばし、上空から通信エリアを生み出すものである。地上系の基地局ではエリア化が困難な山間部や海上などをカバーする非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network、NTN)を実現する手段の1つだ。
NTTドコモとスカパーJSATは、HAPSでの活用を想定し、オーストラリアにて地上約14kmの成層圏下層に有人航空機(図1)を飛ばし、ミリ波帯である38GHz帯の伝送実験を実施した。具体的には航空機メーカーである欧州Airbus(エアバス)の機体を利用し、航空機の底面に38GHz帯の送信機を設置、約14km離れた地上の受信機へ電波を送信した(図2)。晴れや曇、小雨の3通りの気象条件における伝搬特性を測定した。
ドコモによると、扱いが難しいとされるミリ波帯の電波であるものの、天気が晴れの見通し環境の場合、14km上空から問題なく地上の受信機へと伝送できたという。曇りの場合は晴れの場合と比べて電波は減衰するものの、「減衰量としては小さく、地上の受信性能に大きな影響を与えないことがわかった」(ドコモ)とする。
ただし小雨の条件においては、大きな電波の減衰を確認した。ただし、「机上から得られる計算値と同等のレベルだった」(ドコモ)という。今回地上の受信機は、上空の航空機の位置情報などを活用して、機械的にアンテナの向きを航空機方向に向ける機能を導入した。これによって航空機の旋回によって生じる受信信号の変動を抑制できる効果があったという。
実証実験で用いた38GHz帯の電波は、国際標準化機関であるITU-Rにおいて、HAPS向けの周波数帯として既に確保されている。NTTドコモによると38GHz帯を用いたHAPSによって、「基地局のバックホール回線や災害対策といった固定系通信サービスへの応用が考えられる」とする。
今回の実証実験では、エアバス機体のスケジュールなどから無人航空機を手配できなかった。今後、実際の無人航空機を使った実証実験も実施する考えだ。