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 「グリーンファクトリーEXPO」(2023年1月25~27日、東京ビッグサイト)に出展したデンソーは、同社が開発中のSOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell、固体酸化物形水電解)技術の詳細を初めて対外的に公表した(図1)。SOECは水蒸気の電気分解で水素をつくる技術である。自動車部品開発で培われたセラミック技術や熱交換技術を転用して性能を高め、システム電解効率4.2kWh/Nm3、一定条件下では3.7kWh/Nm3の実現を目指す。実用化時期は2025~2030年を見込む。

図1 デンソーが開発中のSOECの詳細
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図1 デンソーが開発中のSOECの詳細
(写真:日経クロステック)

 SOECは、液体の水ではなく600~800℃の高温水蒸気を電気分解(電解)してグリーン水素をつくる(図2)。水は高温の方が理論電解電圧が低いため、アルカリ水電解やPEM(プロトン交換膜)形水電解といった低温で動かす他の方式と比べて、SOECは電解に要する電気エネルギーが低い。水蒸気は加熱によって高温にできるので、始動時に排熱を使うなどすれば全体の効率を事実上高められる。

図2 SOECの原理
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図2 SOECの原理
(写真:日経クロステック)

 デンソーは開発ポイントとしてセラミック製の電解質と、水蒸気の加熱に要する熱のマネジメント技術を挙げた。

 そもそもSOECは、燃料極・電解質膜・空気極の3層から成る「セル」、ないしそれを積み重ねた「セルスタック」が構成単位となる。高温耐性を持たせるため材料にはセラミックを用いる。水蒸気は燃料極から入り、そこで分解(還元反応)されて酸素イオンと水素になる。酸素イオンは電解質を通じて空気極に移動し、酸化されて酸素になる。

 電解質膜の設計においては、膜を薄くするほど損失が低減するが、その分穴が空きやすくなり信頼性が低下するトレードオフがある。この問題に対して、同社は排気センサーの部品開発などで養った技術とノウハウを活用して、薄くても高強度の膜の実現を目指す。セラミックの製造プロセスにおける元素レベルの挙動分析技術や、原料の調達から焼成、組み立てに至る一貫生産技術を応用する。

 熱マネジメントは大きく、初期動作時における加熱と、継続動作時における熱の維持の2つに分けられる。前者は装置始動時に、700℃の高温の水蒸気をつくるための熱である。ヒーターなどの熱源を想定する。後者はセルスタックの温度を維持する技術で、同社によれば「通電によって発熱するため、外部から追加の加熱がなくても700℃を保つ」とする。

 水電解システムのエネルギー効率の目標値として、デンソーは排熱利用がない場合に4.2kWh/Nm3、ある場合には3.7kWh/Nm3を設定する。熱マネジメントの機構は、車載用熱交換器の技術をベースに開発している。その他、未反応の水蒸気を再循環して無駄なく水素をつくる「エジェクター」という機構も取り入れる。