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 「デモンストレーションを開始します」

 合図とともに、スタジオの端においてあった美術セットがスタジオ中央に置かれた大型LEDディスプレーの前に運ばれてきた。列車の座席のセットである。そこに男女の演者が座る。次の瞬間、LEDディスプレーに映されたのは、動く乗物から撮影されたひまわり畑の映像。そしてできあがったのは、青空が広がるひまわり畑を走る列車内から外を見つめるカップルの姿というまるで映画の1シーンだ(図1)。美術セットとLEDの背景映像という、まさにリアルとバーチャルが交錯した瞬間を、記者はこの目で見た。

図1 バーチャルプロダクションの撮影デモ
図1 バーチャルプロダクションの撮影デモ
内覧会のデモの様子。グラスの水に背景のLEDの映像が映り込んでいて、リアル感の強い映像ができている。同様のことをグリーンバックで撮影し、その後CGの処理で実現しようとすると、手間がかかる上コストもかさむという(写真:日経クロステック)
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 ここは、東京都調布市にある角川大映スタジオ。2021年に公開された映画「東京リベンジャーズ」などが撮影された場所である。このスタジオに、ソニーPCLが2023年1月から同年3月31日までの期間限定でバーチャルプロダクション*のスタジオをオープンした。記者は報道陣向けの内覧会に参加した。

*バーチャルプロダクション:演者の後ろに巨大なLEDディスプレーを置き、背景としてCG(コンピューターグラフィックス)映像や自由視点の実写映像を表示しながら撮影する新しい映像制作手法。

 ソニーPCLは、既に東京都江東区の「清澄白河BASE」に自社開発のバーチャルプロダクションのスタジオを持っている。それと、角川大映スタジオに開設されたスタジオのスペックを比較した限りでは、さほど大きな違いは見られない(表1)。

表1 清澄白河BASEと角川大映スタジオの比較
表1 清澄白河BASEと角川大映スタジオの比較
スタジオサイズやLEDのサイズ、形状に差分があるが撮影技術やシステムは同じものを使用している(表:ソニーPCLと角川大映スタジオの資料を基に日経クロステックが作成)
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 ではなぜ、角川大映スタジオに新たにスタジオを造る必要があったのか。それは、両社の思惑が一致したからである。