NTTドコモと慶應義塾大学ハプティクス研究センター(以下、慶応大)は、今後商用の5G(第5世代移動通信システム)網に実装される可能性がある超高信頼低遅延技術「URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)1」を用い、人の手を動かした際に感じ取る手応えを無線で遠隔地に送り、最大96%再現することに成功した。その成果を、NTTドコモが2023年2月2日から28日にかけてオンライン開催している、研究開発イベント「docomo Open House'23」で披露している(図1)。
今回の実験結果は、将来、モバイルデータ通信を使って、いつでもどこでも動作情報を人間と遠隔操作ロボット間でやり取りできる可能性を示したとしている。
慶応大は遠隔操作ロボットに向けて、人間が感じる繊細な感覚を遠隔地に伝える「リアルハプティクス」技術を開発している。リアルハプティクスは、遠隔操作ロボットにモノの手応えを感じる能力を与え、人間が持つ繊細な力加減に基づいた制御を可能にする技術である。操作する側の装置を「マスター」、操作される側の装置を「スレーブ」と呼び、マスターとスレーブの位置・力・速度を同期し、手応えの情報を伝送することで、人間の力加減に基づいた遠隔操作を実現する。
この実現には、低遅延な通信状態を変動(ゆらぎ)なく保つことが重要である。遅延時間やその変動が大きいと、人間の操作側とロボット側で同期が取れず、ロボットが制御不能な状態に陥ってしまうからだ。
しかし、LTEはもちろん、現状の5Gでも、モバイルデータ通信を介して鮮明な手応えの情報を人間に違和感なく伝えることは難しく、これまでは有線接続が必要だった。
一方で、今後5Gに実装される可能性があるURLLCを使うと、無線でリアルハプティクスを実現できることが今回実証された。URLLCは、移動通信の標準化団体3GPP(The 3rd Generation Partnership Project)が定めたLTE/LTE-Advancedの高度化仕様を含めた規格「Release 15」で規定されている。無線信号の伝送時間の短縮、パケット受信成功確率を高めるための再送に要する時間の短縮、パケット受信成功確率の改善などの技術をベースにしている。なお、NTTドコモの担当者によると「URLLCを介した場合の遅延時間は、片方向で10ms(ミリ秒)、双方向で20msのレベルで、これは有線と同等」としている。
これによって両者は、有線通信では実現が難しかった屋外での利用や、人間が立ち入ることが難しい場所において、人間が行う精細な力加減を必要とする作業を遠隔ロボットが代わりに行うことが可能になるとしている。