民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」を手掛けるスタートアップ、ispace(東京・中央)は2023年2月28日、同4月末の月面着陸に向けて進行中のミッション1(月面着陸ミッション)の中間成果を発表した。
同社が開発したランダー(月着陸船)は2022年12月11日に米国フロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地から米SpaceX(スペースX)のロケット「Falcon9」によって打ち上げられた。その後、2023年1月20日には地球から最も離れた地点となる137.6万kmまで航行し、民間資本によって開発された商業用宇宙機としては地球から最も遠い地点まで移動した機体となった(図1)。
現在はそこを折り返し、地球から約80万kmの地点を月の方向に向けて航行を継続している。これまでに合計3回の軌道制御マヌーバ(軌道を変えるために推進システムを使用すること)を実行し、安定的に航行しているという。
同社はミッション1について、打ち上げから着陸までの間に10段階のマイルストーンを設定しており、それぞれに対して成功基準を設けている。既に「深宇宙航行の安定運用を1カ月間完了」という5段階(Success5)まで終えており、2023年3月中旬ごろにはSuccess6となる「月周回軌道投入前のすべての軌道制御マヌーバの完了」を、同3月下旬ごろにはSuccess7となる「月周回軌道投入マヌーバの完了」を予定している(図2)。
計画通り進めば2023年4月末に月面に着陸する。米国の宇宙系スタートアップ、Intuitive Machines(インテューティブ・マシーンズ)も月面着陸ミッションを進めており、最新の情報では2023年6月後半の着陸を目指しているという。ispaceが予定通り着陸に成功すれば、民間企業として世界初の称号を手に入れられることになる。
同社代表取締役CEO(最高経営責任者)の袴田武史氏は「ispaceが設計・開発したランダーは、宇宙空間で安定した稼働が可能であることが確認された。東京・日本橋にあるミッションコントロールセンター(管制室)からの運用も、事前のシミュレーションに沿った安定的かつ柔軟性が高いものを実現している。ただし、何もトラブルがないわけではなく、当初計画から外れるトラブルは毎日のように起きている。それらへの対応を通じて、多くのデータとノウハウを獲得しており、今後のミッションにフィードバックできる」と話した。
同社は2024年にミッション2(月面探査ミッション)の打ち上げを行う予定だ。そしてミッション3では、精度を高めた月面輸送サービスの提供によって米航空宇宙局(NASA)の国際協力有人月探査計画「Artemis(アルテミス)」に参加する。同社米国法人のispace technologies U.S.は、月の裏側に着陸予定のNASAの「CLPS(Commercial Lunar Payload Services)」プログラムに選出された米Charles Stark Draper Laboratory(チャールズ・スターク・ドレイパー研究所)のチームの一員となっている。2025年にランダーの打ち上げを予定している。
ispace CTO(最高技術責任者)ランダーシステムエンジニアリンググループ マネージャーの氏家亮氏は「我々は5年の歳月をかけてランダーを設計・製造してきており、これまでの運用に満足している。当社は月面輸送をリードする立場として透明性を保つ必要がある」と話し、ランダーの各サブシステムの状況を説明した。
例えば、構造設計面では、打ち上げ時の厳しい熱的・機械的な環境に耐え、分離後もランダーに損傷はないという。通信は2つのアンテナを使っているが、ロケットから分離直後に不安定な状態が発生した。しかし、その後、迅速に問題を特定して通信を確立したという。航行に必要なすべてのデータをタイムリーにダウンロードできている。
ランダーの電力はボディーに搭載している太陽光発電パネルが供給しているが、発電量は計画よりも高く推移しており、航行中の電力管理計画にプラスの影響を与えている。推進系は、主推進系のタンクの温度が計画より高くなっているが、想定通りの性能を確認している。また、ランダーに搭載している顧客のペイロードは、ランダーとの通信がすべて正常に確認され、航行中のデータを顧客に提供しているという。