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 ソフトバンクは、同社のR&D部門である先端技術研究所による技術展「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」(2023年3月22~23日開催)で、空飛ぶ基地局「HAPS(High Altitude Platform Station、成層圏プラットフォーム)」の実用化に向けた開発の現状を明らかにした。

 HAPSは高度20kmの成層圏を長期間飛び続ける飛行体で、移動通信システムの基地局を搭載することで、基地局が整備されていない地域にブロードバンドサービスを提供する。「Starlink」〔米SpaceX(スペースX)〕など人工衛星を使う衛星ブロードバンドサービスと比較すると、専用のアンテナが不要で、スマートフォンで直接通信できるのが最大のメリットだ。さらに衛星よりも飛行高度が低いため、低遅延・大容量の通信サービスを実現できる可能性がある。

 HAPSは翼に搭載する太陽電池の電力を動力源に、成層圏を時速50~60kmの速度で円を描くように飛ぶ。1機で直径200kmのエリアをカバーする。日本全国なら数十基でカバーできるという。

 ソフトバンクは、2017年からHAPSに関わるプロジェクトをスタートし、ドローンを開発する米AeroVironment(エアロバイロメント)との協業を通じて、検証機「Sunglider(サングライダー)」を開発した。両社の役割分担は、ソフトバンクがHAPSの仕様策定と主要部品を開発し、エアロバイロメントが機体の設計・製造をするというものだ。

 2020年9月には米ニューメキシコ州にある「スペースポート・アメリカ(Spaceport America)」で、Sungliderの成層圏でのフライトと成層圏からのLTE通信の実証実験に成功した(図1)。成層圏からの通信システムが、事業として十分なポテンシャルを持つことを確認したという。

図1 飛行中のHAPS「Sunglider」
図1 飛行中のHAPS「Sunglider」
動力源を太陽電池が生み出す電力に依存するため、通常の飛行機と比べ太陽電池を設置する翼の面積が非常に大きい。実証実験での総フライト時間は20時間16分、成層圏の滞空時間は5時間38分だったという(写真:HAPSモバイル)
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 HAPSにとって重要なのは、機体のエネルギー効率である。そこで、翼が横に長く軽量で、太陽電池を多く取り付けることができる大型機が有利とされている。実際、Sungliderは機体の幅がジャンボジェット機並みの80mで、長さはわずか2m程度である。プロペラは10機搭載する(図2)。ペイロードは、HAPSでは世界最大級の50kgだという。

図2 Sungliderの模型
図2 Sungliderの模型
HAPSの説明パネルの上部につり下げられているのがSungliderの模型。機体の幅はジャンボジェット機並みの80mである。1回当たりの飛行時間は半年を目標にしている。その律速になるのはリチウムイオン電池のサイクル寿命である(写真:HAPSモバイル)
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 一方で、実証実験の結果から事業化には機体構造の軽量化やモーターの高性能化、バッテリーの高容量化などが必要なことが明らかになったという。現在は、後継機に向けて部品レベルから開発に取り組んでいる。なお、今回の展示会では、HAPS向けに開発したフライトシミュレーターを初公開した(図3)。

図3 HAPS向けのフライトシミュレーターのデモ
図3 HAPS向けのフライトシミュレーターのデモ
機体の設計や気象条件の変化に応じた飛行特性をシミュレーターで確認しているという。左の操縦かんでHAPSを操作する(写真:日経クロステック)
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 事業化の目標時期は2027年で、まずは赤道付近の地域を対象にサービスを提供する予定だ。HAPSでは、太陽電池が日中に生み出す電力のみが動力源となる。夜間は翼面内に搭載したバッテリーに蓄積した電力を使って飛行するが、現在の試算では、日本のように緯度が高い地域では夜間飛行に十分な電力を確保できないためである。