全1770文字

低コストと高い信頼性、そして柔軟性という3つの柱を高いレベルで実現するため、H3ロケットではさまざまな新技術を導入している。それは、新開発のメインエンジン「LE-9」を中心に、機体の各所に見て取れる。組み込まれた機器だけでなく、その製造方法、さらに打ち上げを実施する射場でもH3は従来と一線を画す。今回はアディティブ製造装置(3Dプリンター)の活用など、H3ロケットを構成する部品の加工方法について紹介する。

 LE-9エンジンでは低コスト化のためにさまざまな新しい製造技術を導入した。その代表格がアディティブ製造(3Dプリンティング)である。平らにならした粉末材料の表面をレーザー(もしくは電子ビーム)で走査する「粉末床溶融結合法」、レーザーなどを照射した部分に粉末材料を吹き付ける「指向性エネルギー堆積法」の両方を使っている。

複雑形状を一体化してコスト低減

 ターボポンプや配管バルブのケーシングは、粉末床溶融結合法でチタン合金製部品を造形する。従来は切削で製造していた部位だ。高温高圧にさらされる燃焼室マニホールドやインジェクターの本体は、従来は耐熱性に優れるニッケル系合金を切削や鋳造、さらに表面加工を加えて溶接するなどして組み上げていた。ニッケル系合金は難削材であり溶接も難しく、熟練作業者による注意深い加工が必須だった。これをLE-9では指向性エネルギー堆積法のアディティブ製造を適用する。

 最終的にはエンジンの最重要部品と言える主燃焼室に推進剤を噴射する噴射器(インジェクター)のエレメントという部品も、アディティブ製造を適用する。アディティブ製造したエレメントは、1つのまとまった部品となる。その分コストの低下と信頼性を向上させることができるわけだ。

LE-9に適用されたアディティブ製造
LE-9に適用されたアディティブ製造
チタン合金やニッケル合金などの部品にアディティブ製造を適用し、部品点数や工数などの削減によって低コスト化、信頼性の向上を狙う。(出所:三菱重工、JAXA勉強会資料)
[画像のクリックで拡大表示]

   LE-9ならではの製造法もある。燃焼方式として「エキスパンダー・ブリード・サイクル」を採用したLE-9は、ターボポンプを駆動する高温ガスを、主燃焼室の壁面からの吸熱で生成する。そのため燃焼室壁面の面積は十分に大きい必要がある。結果、燃焼室の全長は「LE-7」(H-IIA/Bのメインエンジン)よりも長くなった。

 燃焼室は伝熱性の高い銅の内筒を強度の高い外筒で覆う2重構造となっており、このうち内筒は一体成形する必要がある。LE-9の燃焼室内筒は「フローフォーミング」という技術で製造した。事前に型を使って鍛造で成形した銅の素材を、マンドレルという回転する型に押しつけて塑性変形させる方法だ。これによって、長大な燃焼室内筒の製造を実現している。

燃焼室の内筒・外筒
燃焼室の内筒・外筒
燃焼室の内筒は銅合金製の一体もの。LE-9では「エキスパンダー・ブリード・サイクル」を採用するため、燃焼室壁面の面積を大きくしなければならなかった。 (出所:JAXA)
[画像のクリックで拡大表示]