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低コストと高い信頼性、そして柔軟性という3つの柱を高いレベルで実現するため、H3ロケットではさまざまな新技術を導入している。それは、機体の各所に見て取れる。組み込まれた機器だけでなく、その製造方法、さらに打ち上げを実施する射場でもH3は従来と一線を画す。今回はアビオニクス(電子機器)のネットワーク化と冗長化を取り上げる。

 H3ロケットのアビオニクスは、H-IIA/Bから大きく進歩し、ネットワーク接続を採用している。H-IIA/Bのアビオニクスは、個々の機器を必要に応じて直接ケーブルで結線していた。

打ち上げ準備作業のコストを低減

 例えば、誘導制御の要となる誘導制御計算機(GCC)は、各種センサーの情報からロケットエンジンの噴射方向や姿勢制御スラスターの噴射量を計算する。そうして得られた数値が、噴射方向を変えるアクチュエーターや噴射量を変えるバルブ制御機構へと伝えられる。H-IIA/Bでは、センサーとGCCを直接結線してセンサーからの入力を伝えている。計算結果の伝達も直接ケーブルをつないで行っている。

 これに対してH3では、アビオニクスを構成する各機器をネットワーク接続で行う。各種センサー、通信機器、制御機器などは、それぞれネットワークへのインターフェースを持ち、H3の“電子的な背骨"となるネットワークにぶら下がる。センサーからGCCへの情報伝達も、GCCからアクチュエーターへの制御指令も、ネットワーク経由でやりとりする。

図 H3アビオニクスの概要
図 H3アビオニクスの概要
基本的に、第1段と第2段それぞれに搭載したアビオニクス機器が1本の基幹ネットワークに接続され、相互にデータを交換する。2段のネットワークは2本のネットワークによる冗長構成になっている。射点設備との接続が、第2段からのネットワーク回線1本である。(出所:JAXA)
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 この形式の利点は、まず重いワイヤハーネスがネットワークケーブル1本に統合されることによる機体の軽量化だ。機体組み立て工程も簡素化されるので組み立てコストも低減する。それ以上に大きな効果が出るのは、射場における点検と打ち上げの作業だ。

 射場で垂直に立てられたロケットは、アンビリカル(へその緒)と呼ばれるコードや配管で射点設備と接続される。アンビリカルは、[1]電力や搭載衛星を保護する乾燥空気を機体に供給する[2]打ち上げ前に推進剤を充填する[3]搭載電子機器のチェックを機体外部から行う、という役割を持つ。

 アビオニクスのネットワーク化が大きな意味を持つのは[3]だ。従来は個々の機器から直接、アンビリカル経由で外部に配線を引き出す必要があった。それだけ接続のコネクターも増えるし、アンビリカルをつなぐ作業も増える。H3ではネットワークケーブル1本を接続するだけで、アビオニクス全体のチェックが可能になった。それだけ射場作業が簡素化され、打ち上げコストも低下する。この特徴を生かし、H-IIA/Bではロケットに設けたアクセスドアから作業者が内部に入って行っていた点検作業も、アンビリカル経由で行うように改善している。