全3396文字
[画像のクリックで拡大表示]

宇宙航空研究開発機構(JAXA)がH3ロケット開発の進展に合わせて2本のビデオを公開した。「H3ロケット試験機1号機フライトシーケンスCG」と「H3ロケット/試験機の打上げを目指して」だ。いわば「2〜3分で分かるH3ロケット」とも言うべきプロモーションビデオである。精緻なCGと実写を交え、H3ロケットの構成や仕組み、各部品の機能などを迫力ある映像で見せる。今回は2本のうち「H3ロケット/試験機の打上げを目指して」を、科学技術ジャーナリストの松浦晋也氏が解説する。

[1]2014年 H3プロジェクト始動

 H3ロケットの開発プロジェクトは2014年度に始まった。ただし、現在では「LE-9」と名付けられている次期第1段エンジンに向けた検討は00年から始まっている。LE-9が採用したエキスパンダー・ブリード・サイクルというエンジン形式は、本来より小推力のエンジン向けで、推力100tfを超える第1段エンジンへの適用例はそれまでなかった。このエンジンが本当に成立するか否か、時間をかけて検討を重ねていったわけだ。

(出所:JAXA)
(出所:JAXA)
[画像のクリックで拡大表示]

 以下では、H3ロケット試験機1号機(初号機)の打ち上げに向けて開発が進む、エンジンや機体、射場設備の試験・製造などの状況を映像で紹介している。

[2]LE-9ターボポンプ単体試験

(出所:JAXA)
(出所:JAXA)
[画像のクリックで拡大表示]

 LE-9に組み込まれる液体酸素と液体水素のターボポンプ単体の試験は、「JAXA角田宇宙センター」(宮城県角田市)の試験設備で実施した。この施設は、ポンプにもタービンにも実際の動作流体を流して試験できる。

 映像後半に、噴き上がる炎が映し出される。これは液体水素ターボポンプに流した水素を処理している場面だ。流した後の水素は、「バーンポンド」という池の底に導いて放出。気化して泡となった水素は、池の水中を上昇して水面から出る。池の水面から出たところで焼却する。映像には、水素の炎を抑制するために周囲から放水しているのが見える。

[3]LE-5B-3燃焼試験

(出所:JAXA)
(出所:JAXA)
[画像のクリックで拡大表示]

 H3ロケットの2段エンジンである「LE-5B-3」の燃焼試験は三菱重工業・田代試験場(秋田県大館市)で実施した。田代では、大気圧環境下で横向きの噴射で試験する。この他、角田宇宙センターには、上空の真空環境を再現して2段エンジンの運転試験を行う高空燃焼試験設備(HATS:High Altitude Test Stand )がある。

[4]音響サブスケール試験

[画像のクリックで拡大表示]

 音響サブスケール試験とは、打ち上げ時の射点周辺の音響環境を再現してデータを取得する試験だ。スケールモデルに小さな固体ロケットを取り付けて実際に噴射する。

[5]アンテナパターン試験

(出所:JAXA)
(出所:JAXA)
[画像のクリックで拡大表示]

 アンテナパターン試験では、スケールモデルのロケットに搭載したアンテナの感度特性を調べる。ロケットは飛行中、常に地上とデータ通信を行っている。そのため機体にはアンテナが装着してある。